書物を積む者はやがて人生を積むだろう

和書を積んだり漢籍を積んだり和ゲーを積んだり洋ゲーを積んだり、蛇や魚を撫でたりする。

ジャック・フェランデズ『バンド・デシネ 客』(アルベール・カミュ原作)

 原作を読んでみたくなるいい漫画。カミュはガキのころに『異邦人』読んでいまいちピンとこなくて、やっぱり仏文は19世紀だな! などと思いつつその後まったく読まずにきたんだけど、もう一度手を出してみようかな。

バンド・デシネ 客

バンド・デシネ 客

 

「どうして俺と一緒に喰うんだ?」

「腹が減ってるからだ」

  主人公は植民地生まれのフランス人。荒涼とした丘の上の学校で現地の子供たちに地理などを教えたり、救荒のための食糧の配給を差配したりしている。ある雪の日、憲兵バルドゥッチが一人のアラブ人を連れて現れる。アラブ人はいとこを殺したという。バルドゥッチは主人公にアラブ人をタンギーの町まで護送するように頼む。主人公は不承不承受け入れる。

 その晩主人公はアラブ人と一緒に食事をし、殺人について尋ねるが、いまひとつ要領を得ない。主人公はアラブ人を逃走させることを決意し、道中で金と食料を与え、逃亡ルートを教えて護送を放棄するが、アラブ人は敢然として牢獄のある町タンギーへと向かっていく。

 

 60ページほどのコミックだが台詞があるページは半分くらい、残り半分の半分は一言か二言モノローグがあるだけ。というわけで、まともなかけあいがあるページは全体の四分の一くらい。まばらに草が生えるだけの荒野、降雪、中年男性の教師の孤独な暮らし、寡黙で謎めいた殺人者……全体的にすごく静かな漫画。ただし憲兵バルドゥッチだけはやや多弁で、主人公との対話でもお互い感情的になっている。憲兵との騒がしいやりとりのおかげで、そのあとの主人公とアラブ人が二人で黙って荒野を歩くシーンが余計引き立つというわけ。

 二人の孤独な中年男性が、ただただ黙って荒野を歩き続けるという場面が、かくもぐっとくるものだとは。友達ですらない二人の離別の場面は苦い。

 で、ぞっとする結末がついてる。