書物を積む者はやがて人生を積むだろう

和書を積んだり漢籍を積んだり和ゲーを積んだり洋ゲーを積んだり、蛇や魚を撫でたりする。

7月注目の海外文学新刊リスト

 現代中国の作家李鋭の小説が翻訳されるのはこれが初めてかな。文庫で刊行とはありがたいことだ。岩波現代文庫ということで、絶版になった後の入手は困難だろうから、在庫があるうちに入手しておくが吉かと。あとは『紙の民』が気になる。

ウィリアム・シェイクスピア『ウィンザーの陽気な女房たち』

ああ、恋の力は偉大なるかな、ときにはけだものを人間に変え、ときには人間をけだものに変える。(151ページ)

 ならず者の老騎士フォールスタッフは、フォード夫人とページ夫人を誘惑し金を騙し取ろうとたくらみ、二人にラブレターを送るが、これに腹を立てた二人の夫人は逆にフォールスタッフを痛い目に遭わせてやろうと相談する。一方、フォード氏は妻とフォールスタッフとの関係を疑い、偽名を使ってフォールスタッフに近づく。

 『ヘンリー4世』の主人公ハル王子ことヘンリー5世の不良仲間フォールスタッフを主人公にした戯曲。エリザベス女王の「フォールスタッフが恋をしているところが見たい」というリクエストに応じて作られた戯曲という伝説があるが、内容的には女王の要求をまったく満たしていないのはご愛嬌。
 コメディというよりファルス寄りな感じ。悪だくみするたび裏をかかれ、裏をかかれたことに気づかずきりきり舞いするフォールスタッフがひたすら愉快。ほかのキャラなら冗談ごとではすまないほど痛い目に遭っているのに、それを笑いに転化できるのはこの呑んだくれのすけべ爺の不思議な人徳かもしれない。シェイクスピアが創造した人物の中でハムレットと並ぶ成功例と言われるだけのことはある。愛すべきバカってやつですな。
 『ヘンリー4世』でのフォールスタッフの末路が哀れなものだっただけに、本作では袋叩きにあいつつも結局は平和な幕引きを迎えられたことにはほっとした。
 シェイクスピアの戯曲の中ではもっとも散文の割合の高い作品らしい。そのためかダジャレが少なめだったのは残念。