書物を積む者はやがて人生を積むだろう

和書を積んだり漢籍を積んだり和ゲーを積んだり洋ゲーを積んだり、蛇や魚を撫でたりする。

秋田禎信『閉鎖のシステム』

 黒さんが「ライトノベルの奇書」と呼んでいた理由が分かった。結末と挿絵はたしかに奇々怪々。『魔術師オーフェン』や『エンジェルハウリング』も読んでみようかしらん。

閉鎖のシステム (富士見ミステリー文庫)

閉鎖のシステム (富士見ミステリー文庫)

誰だって殺人鬼の予備軍なんだとしたら、別に閉鎖後のプラーザの地下でなくても、いつだって今と同じ程度には危険だってことにならないかな。(154ページ)

 ショッピングモール「プラーザ」で靴屋をしている論悟は、鳩時計との戦争の結果、閉鎖時刻までモールに居残ってしまう。消灯後の暗闇の中、同じく居残ってしまったスポーツ用品店の香澄、客の康一、教子とともに、彼は地下一階の警備員室を訪ねるが――。

 サスペンスもの。ほぼ全篇、暗闇の中で物語が展開する。
 明かりがほとんどなく、互いの顔も見分けられぬ空間、そこを得体の知れない人物が徘徊しているかもしれない――という恐怖感はよく描き出されている。それ以上に出色なのが、そういう状況下で繰り返される、主人公・論悟の空とぼけたセリフまわしで、これは読んでいて愉快である。解決(?)はわりと予想のつく形で示されるのだけれど、異様なのは結末部分の「定例報告書」。ネタバレになりかねないので詳しくは書けないが、作品世界のルールから外れたこの文書が、作品の末尾に置かれている理由はいったい何なんだろう。
 余談であるが、挿絵も異様な存在感がある。なにせ登場人物が一人としてまともな服装をしていない。一般人であるはずの彼らになぜこんな奇抜な衣装を着せたのか、挿絵画家の意図も測りかねるものがある。