書物を積む者はやがて人生を積むだろう

和書を積んだり漢籍を積んだり和ゲーを積んだり洋ゲーを積んだり、蛇や魚を撫でたりする。

イアン・ワトスン『スロー・バード』

 SF短篇集積読消化プロジェクト、第二弾。『ヨナ・キット』でとっつきにくいイメージを受けたワトスンだけど、この短篇集は楽しめた。いちおし。

スロー・バード (ハヤカワ文庫SF)

スロー・バード (ハヤカワ文庫SF)

わからないの? それは、あなたの魂よ。あなたは、自分の魂をなくしたんだわ。(「我が魂は金魚鉢の中を泳ぎ」26ページ)

 日本オリジナル編集によるワトスンの短篇集。全14編を収める。

 おおらかな語りでばかばかしい出来事を描いた作品から、ファーストコンタクトもの、こちこちのハードSFまで、多様な作品を集めた本で、ワトスンの多彩な才能を窺い知れる。編集した大森望ら訳者の選択眼も大したものだ。
 私としては、やはり、あんまり硬質なSFよりはとぼけた調子の作品に惹かれる。中でもお気に入りなのは、咳きに悩まされる男が自分の魂を吐き出してしまう「我が魂は金魚鉢の中を泳ぎ」。軽やかな風刺が効いていてなかなか良いのだ。ほかにも「絶壁に暮らす人々」「大西洋横断大遠泳」「ぽんと開けよう、カロピー!」あたりは馬鹿げた設定とゆるい物語が楽しめる。「寒冷の女王」「世界の広さ」「スロー・バード」あたりは、シリアスな内容と馬鹿げた設定のかもし出すミスマッチがまた楽しい。
 ある人曰く、「ワトスン、ベイリー、ラッカーは三大バカSF作家、その頂点に最高のSF作家ラファティが君臨する」と。この短篇集を読んで、ワトスンをベイリーやラッカーと並べる理由がわかった。