書物を積む者はやがて人生を積むだろう

和書を積んだり漢籍を積んだり和ゲーを積んだり洋ゲーを積んだり、蛇や魚を撫でたりする。

エリック・マコーマック『パラダイス・モーテル』

この本は絶版なので、マコーマックに興味があるならまずは昨年文庫化された『隠し部屋を査察して』を読んでみよう。で、相性がよさそうだと思ったら古本屋か図書館でこの本を探してみるといい。
マコーマックも翻訳が止まってるなあ。またこの人の短篇が読みたいのだが……創元さん、なんか出してよ。

パラダイス・モーテル (海外文学セレクション)

パラダイス・モーテル (海外文学セレクション)

それがベストセラーになりそうもないことはすぐにわかった。(173ページ)


 語り手エズラ・スティーヴンソンの祖父ダニエルは、かつてともにパタゴニアを訪れた仲間・ザカリーから聞いた話をエズラに伝える。その話とは、ある外科医が妻を殺し、その遺体の一部を四人の子供に埋め込んだというもので、ザカリー自身も医師の子供の一人であるという。長じたエズラは、外科医の四人の子供がいかなる生涯を送ったかをふと知りたくなり、調査を試みる。

 全篇これ奇想の塊といった感じの短篇集『隠し部屋を査察して』と比べると、長編小説であるためか、奇想の数と密度はやや後退している(それでも、たとえば外科医の息子の一人エイモスがジャングルの未開民族の間で体験した話などは、かなり奇抜奇怪かつグロテスクで楽しいのだが)が、構成の面白さでは『隠し部屋』に勝っている。複雑な入れ子構造、多重の語り――そういった仕掛けを使って、虚構性を強調しているのだ。
 ただ字面を追って作者の奇想を楽しむも良し、この作品を通じて文学や語りものの虚構性に思いを馳せるも良し。一読必笑のよくできたメタフィクションである。