書物を積む者はやがて人生を積むだろう

和書を積んだり漢籍を積んだり和ゲーを積んだり洋ゲーを積んだり、蛇や魚を撫でたりする。

尾関修一『麗しのシャーロットに捧ぐ』

 『百歳の人』に続いてまたもゴシックホラー。書籍の形態から言えば硬軟両極端な感じではあるけど(実はイラストの枚数は『百歳の人』のほうが多い。まあ、どちらの絵師さんもいい仕事をしていることには違いはないけど)、『百歳の人』は「不死身の放浪者」、『麗しのシャーロットに捧ぐ』は「死者の復活」が(とりあえず)話の中心になっているあたり、内容的にはそうかけ離れたものでもないかな。スケールと描写の濃さでは『百歳の人』、構成の点では『麗しのシャーロットに捧ぐ』に軍配。

悪魔は、言葉巧みに目的をずらして行きます。(65ページ)

 メーネルト家に仕えるメイドのシャーロットは、人形作家である主人のフレデリックに思いを寄せているが、フレデリックは病床の妻ミリアムを深く愛していた。ところがあるとき、シャーロットはミリアムが実は人形ではないかと疑いを抱く――。

 郊外にある三階建ての屋敷の主人となった、時代を異にする(といっても二十年ほどだが)三組の人々の愛憎と狂気を描くゴシックホラー。なぜか全ての窓が北向きの屋敷に、山と積まれた人形、あるいは人形と見紛うばかりの色白の美女――と舞台立て道具立てはばっちりである。また、謎の見せ方や解き方、読者の誤解を誘う叙述トリックなどにもうまいところがあって、最後に三つの物語の相関がはっきり現れるところは見事である。というわけで構成は鮮やか。だが、キャラクター性はやや弱い。第二部のヒロイン・ルシアラ以外のキャラクターは、やや心理描写が物足りない印象である。異常心理を扱うなら、登場人物が狂気に陥っていく過程をさらに丁寧に描いて欲しかったとは思う。