書物を積む者はやがて人生を積むだろう

和書を積んだり漢籍を積んだり和ゲーを積んだり洋ゲーを積んだり、蛇や魚を撫でたりする。

張系国『星雲組曲』

 老舎『猫城記』以来の中国SFの翻訳単行本である。となれば、SFファンなら当然買うべきだし、SFファンでなくとも、中国・台湾文学に興味があるなら手を出しておくべきだろう。いやもちろん、珍しいだけの本じゃない、ちゃんと中身もある。「新しい台湾の文学」シリーズは置いてある店も少ないだろうが、探すなりネット書店を使うなりして入手すること。それだけの価値があることは私が保証しよう。

星雲組曲 (新しい台湾の文学)

星雲組曲 (新しい台湾の文学)

あなたはまだ空想が可能だと思っているが、実際は脳の中の小さな機器に支配されている。提供される廉価な夢幻の境地を受け取っているだけで、それより多くも少なくもない。(「夢の切断者」、85ページ)

 未来世界のさまざまな時代を舞台にしたSF短篇集。原書は『星雲組曲』と『星塵組曲』の二冊であったが、邦訳版はこの二冊の合本となっている。

 20ページ前後の作品が多く、短篇というより掌編寄りである。だが個々の作品の分量が少ない分、題材は多岐にわたっていて、読者を飽きさせることがない。たとえば「夢の切断者」は安手のエンターテイメントに浸る民衆と、自分の領域を護ることに汲々とする文学作家、双方を滅多切りにした風刺作品だし、巨大な銅像を象徴として持つ都市の興亡を描いた「銅像都市」は中国史の隠喩だろう。同じ星を舞台とし、「銅像都市」の続編的な作品となっている「傾城の恋」は一転、未来世界の女性に恋する一方で、(文字通り)歴史の虜となってしまう青年を描いて、ロマンティックな内容になっている。「シャングリラ」は石状の生命体と麻雀によるコンタクトを試みる話で、ちょっとレムとラファティを足したような雰囲気がある。
 文化への風刺、歴史の隠喩、途方も無い奇想、ロマンティシズム、愛すべきロボット、残酷なユーモア――この短篇集を読むことで、SFの楽しさを総なめすることができる。しかも、張系国の根底にあるのはやはり中国文明だから、西洋の作家のSFを読むのとはまた少し変わった文章も味わえる。科学技術描写は薄めなので、SFを読み慣れていなくても問題ないだろう。そんなわけで、SFマニアにも初心者にも、広くお薦めできる本である。