バリントン・ベイリー『シティ5からの脱出』
SF短篇集積読消化プロジェクト、第三弾。暗いよ! 読みにくいよ! 疲れたっ! ――しかし「ドミヌスの惑星」は間違いなく傑作だと思う。

- 作者: バリントン・J・ベイリー,浅倉久志
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1985/09
- メディア: 文庫
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きみにしても、自分たちの世界観が一般的なものでなく、異常で例外的なものだと認めることがむずかしいのだよ。(「ドミヌスの惑星」、273ページ)
70年代に発表された短篇を集めた、ベイリーの第一短篇集。
奇天烈な理論を根っこに据えた奇天烈な作品が揃っていて、楽しいことは楽しいが、解説でも指摘されている通り、どうも理論が勝ちすぎる面があって、読んでいて疲れてしまった作品も多い。おまけに短篇の配列として、最初と最後に読みにくい作品が据えてあるため、とっつきも後味もよろしくない(ついでにバッドエンドを迎える作品も多い)。その点、『カエアンの聖衣』のテンションの高さが欠けていて、娯楽性が足りない気がする。
ただ、物質と空虚の割合が逆転した宇宙を描いた「洞察鏡奇譚」と、環境に即応してただちに進化する生命たちの惑星を描いた「ドミヌスの惑星」の二篇は、強烈なアイディアが炸裂している傑作。とくに「ドミヌスの惑星」に登場する生物ドミヌスは、『カエアンの聖衣』のプロッシム知性体にも匹敵する存在感を放っている。「ドミヌスの惑星」一篇を読めただけでも、この本を読んだ甲斐があったというものだ。