アウグスト・ストリンドベリ『罪また罪』
「少なくともわたしは、良心なんてもの、知らないわ。」(233ページ)
劇作家モーリスには、愛人ジャンヌと彼女との娘マリオンがいるが、芝居で成功を収める夜、親友の恋人アンリエットと恋仲に陥ってしまう。モーリスはアンリエットと結婚するため、マリオンの死を願う言葉をつぶやくが、マリオンは実際に死んでしまう。
……あれ?
『父』や『令嬢ジュリー』の劇薬じみたインパクトがぜんぜんないんだが……ストリンドベリはいったいどうしてしまったんだろう? 解説によると、1892年(『令嬢ジュリー』から四年後)から五年間、ストリンドベリはスランプ(どころじゃない状態)に陥っていたらしいが、その間に思想の変化でもあったんだろうか。『ストリンドベリ名作集』のうち、『令嬢ジュリー』の次に収められている『ダマスカスへ』をとばして、先にこの『罪また罪』を読んだのがよくなかったのか?
モーリスの罪、モーリスが転落を始める理由は、我が子の死を願ったからというわけだが、なんだかなあ。そういう「思っただけで罪」というキリスト教的な意識がしっくりこないから、読んでていまいち切迫感を感じられなかったのかもしれない。
むー、それを差し引いても、『父』『ジュリー』に比べると、明らかにパワーが落ちてると思うのだが。