書物を積む者はやがて人生を積むだろう

和書を積んだり漢籍を積んだり和ゲーを積んだり洋ゲーを積んだり、蛇や魚を撫でたりする。

ギー・ド・モーパッサン『口髭・宝石 他五編』

口髭・宝石―他五篇 (岩波文庫)

口髭・宝石―他五篇 (岩波文庫)

 短編七作。どれも10〜20ページの分量で、全体でも110ページくらいの薄い本。

 七本とも男と女の話。あっさり味でさっくり読めるが、分量も少なければ際立った特色もないのでいまひとつ物足りない。ビスケットを一枚だけ食べたようなもので、別にまずくもないが特別にうまくもなく、たいがい予想できる味しかしない上に、腹も膨らまない。
 巻頭に置かれている「告白」なんか特にそうで、そこそこ金のある農家の娘が、馬車の御者と、馬車代をただにするのと引き換えに性交し、妊娠したことを母親に告げるという話だが、母親の反応がテンプレートすぎてがっかりする。現代の読者が読むには、ちょっと。
 そんな中でもわりと良かったのは「口髭」、これは女性が手紙の中でひたすら口髭に対するフェティシズムを語り続ける作品で、片足を変態サイドに突っ込んでいてよろしい。また「藁椅子なおしの女」のヒロインの子供っぽい恋情はなかなか切なくて、その相手の薬剤師の反応とかはテンプレどおりではあるんだが、わりと萌えられる。