書物を積む者はやがて人生を積むだろう

和書を積んだり漢籍を積んだり和ゲーを積んだり洋ゲーを積んだり、蛇や魚を撫でたりする。

伊藤ヒロ『アンチ・マジカル』

アンチ・マジカル ~魔法少女禁止法~ (一迅社文庫)

アンチ・マジカル ~魔法少女禁止法~ (一迅社文庫)

皆、苺子の事を『ドジでおっちょこちょいで愉快な子』と思っていたようだが、今思い出せばどいつも同程度に『ドジ』で『おっちょこちょい』であったし、同程度に『お笑い』だった。(231ページ)

 魔法少女の全盛時代だった90年代が終わり、世界を侵食していた脅威が去ると、魔法少女としての活動を禁止する法律が施行された。同時期に活躍していた魔法少女たちが引退し社会に回帰していく中、「おしゃれ天使スウィ〜ト☆ベリー」一人は今も孤独に非合法に悪を挫く戦いを続けていた。彼女に救われた佐倉慎壱は、幼馴染で魔法少女の妹である宇佐美奈々からステッキを借り受け、ベリーの助手となるのだが……。

 某水兵服の美少女戦士をはじめとする、かつて流行した魔法少女アニメと、アメコミ「ウォッチマン」(こっちは未読)を下敷きにしたグロテスクなパロディー。「脅威が去ったあと、魔法少女はどのように暮らしどのような大人になったか」というお話。「魔王を倒したあと勇者はどうなったか」という発想に近いといえば近いか。
 後半のえげつない展開と、ベリーが語る過去の経験と、主役格のキャラクターたちの心が少しずつ侵されていく結末とで、とても厭な読後感を得られる。「24歳の魔法少女」と「17歳の少年新米魔法少女」を主役にもって来たのも絶妙というか。師匠格のベリーのほうを単なる「孤独なヒーロー」として綺麗に描いてないところ、新米とはいえ魔法少女としては年かさな佐倉少年の未熟さを前面に押し出しているところ(17歳でこれなら、90年代の魔法少女たちはいかほどか、と)とか、上手いところもたくさんある。
 妥協しない良いエンタメだった。続きを楽しみに待ちたい。


 あ、女装少年が主人公なわけですが、中身は完全に男の子なんで、「男の娘」ネタが苦手な人も特に問題なく読めると思います。