書物を積む者はやがて人生を積むだろう

和書を積んだり漢籍を積んだり和ゲーを積んだり洋ゲーを積んだり、蛇や魚を撫でたりする。

中村恵理加『ひがえりグラディエーター』

 SF好きでラノベも読むなら『ダブルブリッド』は必読らしいがなにせ巻数がけっこうある。それで二の足を踏んでいたら新シリーズが出たので読んでみた。

ひがえりグラディエーター (電撃文庫)

ひがえりグラディエーター (電撃文庫)

 傍目にはごく一般的な高校生の天海蔵人は、六年前に突如失踪した妹の彩依のことを心の隅で気にし続けている。彼はある日、異世界の少女アールに見出されその世界へつれてこられる。その世界では地球人同士の戦いを見る娯楽が流行していた。蔵人は、妹の親友でこのゲームに前から参加させられていた小藤倫子から、この異世界のゲームで数年間連勝を続けている選手が、どうやら彩依らしいという話を聞く。

 異世界人の娯楽のために殺し合いをさせられる、ただしその技術によっていくら怪我をしても死ぬ事はないし、高額の報酬も支払われる、またいつでも地球に戻ることができる、という設定。半端に配慮があるあたりがまた憎い。昨今流行のあのアニメなんかもそうだけれど、高位の存在に目をつけられると悲惨だよな、という話である。競馬のために調練される馬の立場にたったスポ根といえるかもしれない。
 人と戦うことへのためらいやら、傷ついたときの痛みやら、普段はまったく普通に振舞っている一方でこの異常な環境に適応してしまっている倫子の台詞の気持ち悪さやら、そういうものを丁寧に描いていてなかなか胃が痛くなる内容になっている。

しかしいざそういう小物を扱っている店の前に立つと、男一人でしかも制服のまま店に入るのはいかにも恥ずかしいということに気がついてしまった。今さら倫子に電話して、『リボン買いたいんだけど、恥ずかしいから一緒に来てほしい』と言うのも悪い。(33ページ)

 これは妹の誕生祝い(失踪以後の習慣)にリボンを買おうとしてためらう蔵人のひとこま。倫子と一緒に入ったら別の意味で恥ずかしいだろうこの鈍い奴め、と突っ込むところである。こういうさりげない性格描写に作者の技巧を感じる。