『セルバンテス戯曲集』から「ヌマンシアの包囲」「アルジェの生活」
〇あんたの小説には興味あるけど脚本にはない。セルバンテスさん、はっきりそう言われてしまったとのこと。さすがに傷ついたらしい。
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「ヌマンシアの包囲」はローマ軍によるスペインの都市ヌマンシアの包囲戦を題材にした古代史劇。厳重な包囲と兵糧攻めにより進退窮まったヌマンシアの人々は財宝を焼き、互いに殺し合って一人残らず果ててしまう。
この作品の白眉は魔法使いが出てくるとこ。死者を蘇らせ予言を聞くのだけれど、まったく絶望的な内容だったため、魔法使いは落胆して穴に身を投げてしまう。出番それだけ! フィクションに出てくる「本物」の魔法使いがこんだけ何の役にも立たなかったのって見たことない! ほかの部分も誇り高き敗北とやらの陰惨さがこれでもかと強調されてとてもとても暗い。
「アルジェの生活」は作者自身の捕虜生活体験をもとにした劇。海賊に拉致されアルジェで奴隷生活を送るアウレリオは、女主人サアラから色目を使われているものの、婚約者シルビアへの思いに忠実たらんとして女主人のモーションを拒み続ける。
奴隷生活にもあまた誘惑はあったのだという話だろうか。改宗の誘惑、色恋の誘惑、金銭着服の誘惑。擬人化された「機会」「窮乏」が現れてアウレリオを誘惑するシーンは、「窮乏」の台詞をアウレリオがひたすら鸚鵡返しし続けるという単純な内容で、かえって主人公のぐらつきが印象に残るようになっている。
見どころはある……と思う。でもまぁ、その、これじゃあロペ・デ・ベーガには勝てないよなぁという気もしてしまう。
『スペイン黄金世紀演劇集』収録のロペ『農場の番犬』はほんとめちゃくちゃ面白かったもんなぁ。正直セルバンテスの芝居の比じゃない。
歳をとってから書かれたという「上演されたこともない新作コメディア八編と幕間劇八編」のほうはどうだろうかな。続きは明日以降。