ドミートリー・フールマノフ『チャパーエフ』全2巻
うん、まあ、最初から期待はしてなかったけどね。『チャパーエフと空虚』を楽しむための準備だとしか思ってなかったし。しかし、これほど単調な作品とは思わなかった。こんなことなら、映画のほうを観ておけばよかったかなあ。――これで内容的にほとんど関係がなかったら泣くよ?
チャパーエフ〈上〉 (1968年) (世界革命文学選 日本共産党中央委員会文化部編)
- 作者: 日本共産党中央委員会文化部,デ・ア・フールマノフ,名越民樹
- 出版社/メーカー: 新日本出版社
- 発売日: 1968
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チャパーエフ〈下〉 (1968年) (世界革命文学選 日本共産党中央委員会文化部編)
- 作者: 日本共産党中央委員会文化部,デ・ア・フールマノフ,名越民樹
- 出版社/メーカー: 新日本出版社
- 発売日: 1968
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ショーロホフ『静かなドン』やパステルナーク『ドクトル・ジバゴ』と同じくロシア革命後の内戦を作品の舞台としているが、作品の価値はこの二作品には到底及ばない。内容はひたすらチャパーエフ師団の戦い(しかもひたすら勝つばかりなので全然面白くない)と、クルイチコフ=フールマノフとチャパーエフの会話のみに終始しており、『静かなドン』ほどの筋の紆余曲折もないし、文章も単調で『ドクトル・ジバゴ』の繊細な感受性もない。一人の英雄の伝記文学として見るにも、チャパーエフの前半生が描かれていないので話にならないし、戦争文学としては、白軍コサックの残虐行為の描写にやや凄みがあるとはいえ、全体的には迫力の点でゾラ『壊滅』などにはるかに劣る。
社会主義思想を称揚し、白軍コサックの残忍さを強調するだけ(それにしても、コサックの残虐行為のほかに見るべきところがないのは皮肉だ)の共産主義プロパガンダ小説に過ぎない、というのが私の感想だ。現代の読者が読む価値はないと思う。