書物を積む者はやがて人生を積むだろう

和書を積んだり漢籍を積んだり和ゲーを積んだり洋ゲーを積んだり、蛇や魚を撫でたりする。

ドミートリー・フールマノフ『チャパーエフ』全2巻

 うん、まあ、最初から期待はしてなかったけどね。『チャパーエフと空虚』を楽しむための準備だとしか思ってなかったし。しかし、これほど単調な作品とは思わなかった。こんなことなら、映画のほうを観ておけばよかったかなあ。――これで内容的にほとんど関係がなかったら泣くよ?

 赤軍の伝説的英雄チャパーエフのもとに政治委員として派遣されたクルイチコフは、コルチャック率いる白軍との戦闘に身をおきつつ、チャパーエフの政治に対する無知を啓蒙していく。実際に政治委員としてチャパーエフのもとにいたフールマノフ自身の体験に基づいて書かれた作品。

 ショーロホフ『静かなドン』やパステルナーク『ドクトル・ジバゴ』と同じくロシア革命後の内戦を作品の舞台としているが、作品の価値はこの二作品には到底及ばない。内容はひたすらチャパーエフ師団の戦い(しかもひたすら勝つばかりなので全然面白くない)と、クルイチコフ=フールマノフとチャパーエフの会話のみに終始しており、『静かなドン』ほどの筋の紆余曲折もないし、文章も単調で『ドクトル・ジバゴ』の繊細な感受性もない。一人の英雄の伝記文学として見るにも、チャパーエフの前半生が描かれていないので話にならないし、戦争文学としては、白軍コサックの残虐行為の描写にやや凄みがあるとはいえ、全体的には迫力の点でゾラ『壊滅』などにはるかに劣る。
 社会主義思想を称揚し、白軍コサックの残忍さを強調するだけ(それにしても、コサックの残虐行為のほかに見るべきところがないのは皮肉だ)の共産主義プロパガンダ小説に過ぎない、というのが私の感想だ。現代の読者が読む価値はないと思う。