書物を積む者はやがて人生を積むだろう

和書を積んだり漢籍を積んだり和ゲーを積んだり洋ゲーを積んだり、蛇や魚を撫でたりする。

エンタメ至上主義宣言! 居眠書生の50冊

基本方針。
・エンターテイメント至上主義。
・一作家につき一作品とする。
・私自身の趣味に忠実に、文学史に遠慮しないで選ぶことを心がける。
・冒険的なリストを作るため、有名な作品はあえて外す。ただし、ドストエフスキーだけは例外とする。
・お勧めの作品には(!)を、特にお勧めの作品には(☆)をつける。
・コメントはいい加減。

とりあえず何か面白いものを読みたいひとのために
アリオスト『狂えるオルランド』(名古屋大学出版会)(!)
 イタリア・ルネサンスの掉尾を飾り、『ドン・キホーテ』にも影響を与えた名作……とか、こういう堅苦しい説明はいらない。お間抜けな騎士・女騎士たちの活躍を存分に楽しむがよいのだ。

狂えるオルランド

狂えるオルランド

セルバンテス『ペルシーレスとシヒスムンダの苦難』(国書刊行会
 巨匠の絶筆でござい。枠物語の形式を借りた冒険小説。つまり、『エチオピア物語』の子孫にして『ハイペリオン』の先祖ってとこかな。『ドン・キホーテ』を読む前にアリオストとこれを読んでおくとよかろうよ。

ペルシーレス (上) (ちくま文庫)

ペルシーレス (上) (ちくま文庫)

『デデ・コルクトの書』(平凡社東洋文庫
 アナトリアのトルコ系民族に伝わる物語文学だ。草原民族の雰囲気を楽しめ。

デデ・コルクトの書―アナトリアの英雄物語集 (東洋文庫)

デデ・コルクトの書―アナトリアの英雄物語集 (東洋文庫)

滝沢馬琴椿説弓張月』(岩波文庫
 流刑先の八丈島を逃れた源為朝が、琉球のプリンセスを助けて活躍する。江戸最大の作家馬琴+江戸最大の絵師北斎という、最強タッグによる極上のエンターテイメント。

椿説弓張月 (上巻) (岩波文庫)

椿説弓張月 (上巻) (岩波文庫)

アイヒェンドルフ『愉しき放浪児』(岩波文庫
 「もっともロマン派らしい作家」アイヒェンドルフのお気楽な小説。

愉しき放浪児 (岩波文庫)

愉しき放浪児 (岩波文庫)

A.K.トルストイ『白銀公爵』(岩波文庫
 イヴァン雷帝の時代を舞台にした歴史小説。『三銃士』好きならぜひ。プーシキン『大尉の娘』もいいよ。

白銀公爵 (上) (岩波文庫)

白銀公爵 (上) (岩波文庫)

金庸笑傲江湖』(徳間文庫)(!)
 通俗小説の値打ちが、読者の手に汗をかかせ、本を最後まで閉じさせないことだとすれば、たぶん、今のところこれが世界一の通俗小説だ。

秘曲 笑傲江湖〈1〉殺戮の序曲 金庸武侠小説集 (徳間文庫)

秘曲 笑傲江湖〈1〉殺戮の序曲 金庸武侠小説集 (徳間文庫)

カルヴィーノ『不在の騎士』(河出文庫
 中身からっぽの鎧が繰り広げる珍冒険。『狂えるオルランド』とセットでどうぞ。

不在の騎士 (河出文庫)

不在の騎士 (河出文庫)

ペレーヴィン『虫の生活』(群像社
 登場人物たちは変身を繰り返しつつ軽やかに飛び回る。軽いのはヤダ、という向きは、アナトーリイ・キム『リス』を。

虫の生活 (群像社ライブラリー)

虫の生活 (群像社ライブラリー)


さくっと戯曲でも
シェイクスピア『から騒ぎ』(白水uブックスなど)
 ロペ・デ・ベーガ『農場の番犬』とならぶ、ツンデレ・ラブコメの二大聖典だ。ツンデレカップルに存分に萌えるがよい。

コルネイユ『シンナ』(白水社コルネイユ名作集』に収録)
 恋人の仇は自分の恩人。さてどうしよう。ヒロイズムあふれる名作。モリエールラシーヌよりコルネイユのほうが断然新鮮に読めると思うよ。

コルネイユ名作集 (1975年)

コルネイユ名作集 (1975年)

孔尚任『桃花扇』(平凡社中国古典文学大系『戯曲集 下』に収録)
 中国戯曲なんか読んだことないだろ。これ、読みやすくて面白いし、歴史ものなので『三国志』『水滸伝』のファンなら必読だ。

中国古典文学大系 (53)

中国古典文学大系 (53)


萌えなくして何が文学か
ゴーチエ『モーパン嬢』(岩波文庫
 理想の女を求める男と、男とはいかなる者か知りたい女、さて、その結末は。男装少女から百合にいたるまで妖しげな雰囲気はたっぷり。

モーパン嬢〈上〉 (岩波文庫)

モーパン嬢〈上〉 (岩波文庫)

エーヴェルス『アルラウネ』(国書刊行会
 人造人間ネタ。<宿命の女(ファム・ファタル)>を扱ったものとして、フケー『ウンディーネ』と比べてみるのもおもしろい。

エリアーデ『令嬢クリスティナ』(作品社)
 吸血鬼よりその姪の幼女シミナが怖い怖い。

令嬢クリスティナ

令嬢クリスティナ

ガルシア・マルケス『愛その他の悪霊について』(新潮社)
 ラテアメ文学入門にどぞ。

愛その他の悪霊について (新潮・現代世界の文学)

愛その他の悪霊について (新潮・現代世界の文学)


どっちかというと癒し系
アナトール・フランスシルヴェストル・ボナールの罪』(岩波文庫)(☆)
 本を巡る冒険はいつ読んでもわくわくさせてくれるもので。あとシルヴェストル爺さんかっこよすぎ。

シルヴェストル・ボナールの罪 (岩波文庫)

シルヴェストル・ボナールの罪 (岩波文庫)

ドゥンバゼ『僕とおばあさんとイリコとイラリオン』(未知谷)
 グルジア語から直接訳されたのはこの小説が始めてだそうですよ奥さん。つまり日本翻訳文学史にその名を刻む作品と申せましょう。内容としては、ノスタルジーとユーモアにあふれた佳作。「初恋」の章ではもだえ転がること必至。

僕とおばあさんとイリコとイラリオン

僕とおばあさんとイリコとイラリオン

タブッキ『レクイエム』(白水uブックス)
 イタリアの現代作家で、誰にでもお薦めできるのはこの人。ストーリー性の強いものがお好みなら、『供述によるとペレイラは』をどうぞ。

レクイエム (白水Uブックス―海外小説の誘惑)

レクイエム (白水Uブックス―海外小説の誘惑)


異形の都市にて
コードウェイナー・スミスノーストリリア』(ハヤカワ文庫SF)
 コードウェイナーの名は知らずとも「人類補完機構」は聞いたことがあるはず。え、ない? 独特の味のある文章を書く人です。

カリンティ『エペペ』(恒文社)
 ヘルシンキへ向かったはずが、意味のとれぬ言語を話す人々の都市に到着してしまった言語学者――カフカ系不条理小説。

エペペ

エペペ

カダレ『夢宮殿』(東京創元社
 アルバニア文学はちょっとほかのヨーロッパ文学とは雰囲気が違うね。白水社から出た『誰がドルンチナを連れ戻したか』『砕かれた四月』もいいよ〜。

夢宮殿 (海外文学セレクション)

夢宮殿 (海外文学セレクション)

古橋秀之ブライトライツ・ホーリーランド』(電撃文庫)(!)
 電撃文庫で度肝を抜かれるとは予期してなかった。ビルシャナ仏が百腕巨人にドロップキックをかますプロローグだけでご飯三杯はいけるね。

ブライトライツ・ホーリーランド (電撃文庫)

ブライトライツ・ホーリーランド (電撃文庫)


青春小説嫌いが勧める青春小説
ネルヴァル『火の娘たち』(ちくま文庫
 中篇「シルヴィ」がお勧め。このほろ苦さこそ青春の味だと思うのだけれどどうでしょう。

火の娘たち (ちくま文庫)

火の娘たち (ちくま文庫)

ゴンチャロフオブローモフ』(岩波文庫)(!)
 なんとびっくり、19世紀ひきこもり小説だ。現代人が読むべき青春小説はヘッセでもサリンジャーでもなくこれだろうさ。働いたら負けかなと思っている人は読むべき。

オブローモフ〈上〉 (岩波文庫)

オブローモフ〈上〉 (岩波文庫)

本格小説でどっぷりと
ディケンズ『デイヴィッド・コパフィールド』(岩波文庫など)(!)
 ゆるい語りが魅力。素敵な挿絵でも眺めつつ、ゆったりまったり楽しみましょう。

デイヴィッド・コパフィールド〈1〉 (岩波文庫)

デイヴィッド・コパフィールド〈1〉 (岩波文庫)

バルザックゴリオ爺さん』(岩波文庫など)(☆)
 描写が長すぎてかったるいが、キャラは強烈。初めの70ページを耐え切ればあとはジェットコースターだ。健闘を祈る。

ゴリオ爺さん (上) (岩波文庫)

ゴリオ爺さん (上) (岩波文庫)

ユゴー『九十三年』(潮出版社など)(☆)
 『レ・ミゼラブル』は長すぎるので、ユゴー初読者にはこっちを。フランス革命を扱った歴史小説。ラントナックが熱い。

九十三年 上 (潮文学ライブラリー)

九十三年 上 (潮文学ライブラリー)

ゾラ『ジェルミナール』(中公文庫など)(☆)
 労働小説なんざ読んでられるか、とは言わずに……。社会小説系でこれ以上の小説はない。

ジェルミナール 上 (岩波文庫 赤 544-7)

ジェルミナール 上 (岩波文庫 赤 544-7)

李文烈『皇帝のために』(講談社)(!)
 予言書の読みすぎで自分は皇帝になる運命だと勘違いした男が、太平洋戦争前の朝鮮半島満州を舞台に大暴れ。ドンキホーテ三国演義と朝鮮近代史を足して割らない。

皇帝のために (韓国文学名作選)

皇帝のために (韓国文学名作選)

莫言『白檀の刑』(中央公論社)(☆)
 作品全部をメタフィクション化する最後の一言が熱い。泥臭くて洒脱さがないのがいい感じです。

白檀の刑〈上〉

白檀の刑〈上〉


奇想系。
董若雨『西遊補』(平凡社東洋文庫
 邦題『鏡の国の孫悟空』。なんと孫悟空が多重次元世界で始皇帝を探して冒険する話なのだ。

鏡の国の孫悟空―西遊補 (東洋文庫)

鏡の国の孫悟空―西遊補 (東洋文庫)

ホフマン『黄金の壺』(岩波文庫など)(☆)
 蛇娘ゼルペンティーナに恋した貧乏学生の運命は――。『悪魔の霊酒』『ちびのツァッヒェス』『ブランビラ王女』……ホフマンの小説はどれもすごいよ。俺の中ではベストオブドイツ。

黄金の壺 (岩波文庫)

黄金の壺 (岩波文庫)

シュルツ『肉桂色の店』(平凡社ライブラリー『シュルツ全小説』に収録)
 変身を繰り返すお父さんが素敵。ノスタルジックでグロテスクな良作短篇集。

シュルツ全小説 (平凡社ライブラリー)

シュルツ全小説 (平凡社ライブラリー)

ブルガーコフ巨匠とマルガリータ』(群像社など)(☆)
 はちゃめちゃ。一応ソ連社会の風刺がメインのはずだけど、そんなことは全然気にせずに楽しめる。空飛ぶメイドさんとか出てくるあたりがもう。

巨匠とマルガリータ (上) (群像社ライブラリー (8))

巨匠とマルガリータ (上) (群像社ライブラリー (8))

チュツオーラ『やし酒のみ』(晶文社
 アフリカ人の想像力を堪能せよ!

やし酒飲み (晶文社クラシックス)

やし酒飲み (晶文社クラシックス)

レム『ソラリス』(国書刊行会など)(!)
 SF史に残るマスターピースだ。うん。

ソラリス (スタニスワフ・レム コレクション)

ソラリス (スタニスワフ・レム コレクション)

マコーマック『隠し部屋を査察して』(創元推理文庫
 ブラックジョーク系。エログロ注意。

隠し部屋を査察して (創元推理文庫)

隠し部屋を査察して (創元推理文庫)

アレナス『めくるめく世界』(国書刊行会)(!)
 大マジメなファルスというか、ファルスなのに大マジメというか。暗い話のはずなのに読んでるこっちは大爆笑。

めくるめく世界 (文学の冒険シリーズ)

めくるめく世界 (文学の冒険シリーズ)


小説世界をどう描くか
ウルフ『灯台へ』(岩波文庫など)
 時間の扱い方とかが秀逸。

灯台へ (岩波文庫)

灯台へ (岩波文庫)

パヴィチ『ハザール事典』(東京創元社)(!)
 両表の本『風の裏側』とか、クロスワードパズルを小説に組み込んだ『紅茶で描かれた風景』とか、変な本を作る人です。でも物語としてしっかり面白い本でもある。

ハザール事典―夢の狩人たちの物語 男性版

ハザール事典―夢の狩人たちの物語 男性版

キシュ『砂時計』(松籟社)(!)
 笑いに満ちた珍問答で恐怖と狂気の世界を織り上げる。今年刊行された翻訳小説では今のところベストではないかと思われ。でも売れてないっぽいので、買ってあげてくださいね。

砂時計 (東欧の想像力 1)

砂時計 (東欧の想像力 1)


やたらスケールの大きな話
ドフォントネー『カシオペアのΨ』(国書刊行会
 ある惑星の全史を様々な文体で作り上げる。フランスロマン派が生んだ奇作。

エリクソン『黒い時計の旅』(白水uブックス)(☆)
 歴史改変系。一ポルノ作家の愛がナチスドイツに勝利をもたらす。濃密な幻想描写が売り。

黒い時計の旅 (白水uブックス)

黒い時計の旅 (白水uブックス)

イーガン『ディアスポラ』(ハヤカワ文庫SF)
 作品内で流れた時間、キャラが移動した距離は、世界文学全部の中で最大ではないかしらん。コテコテのハードSFだけど、小粋なセリフがちらっと挟まれたりするところがなんだか良いね。

ディアスポラ (ハヤカワ文庫 SF)

ディアスポラ (ハヤカワ文庫 SF)


破滅系:奈落に向かってまっしぐら
ニーベルンゲンの歌』(岩波文庫)(!)
 二部仕立ての叙事詩。勇士ハゲネのキャラが鮮烈。

ニーベルンゲンの歌〈前編〉 (岩波文庫)

ニーベルンゲンの歌〈前編〉 (岩波文庫)

ドストエフスキーカラマーゾフの兄弟』(岩波文庫など)(☆)
 カラマーゾフシチナ(闇のちから)が満ち満ちてます。

カラマーゾフの兄弟〈第1巻〉 (岩波文庫)

カラマーゾフの兄弟〈第1巻〉 (岩波文庫)

チャペック『山椒魚戦争』(ハヤカワ文庫SFなど)
 ユーモラスな語りながら、物語が破局へ近づいていくのが読者の心に迫る。風刺SFの古典。

山椒魚戦争 (ハヤカワ文庫SF)

山椒魚戦争 (ハヤカワ文庫SF)

グラック『シルトの岸辺』(ちくま文庫)(☆)
 破滅というか、破滅の予感までだけど。ブッツァーティタタール人の砂漠』、クッツェー『夷狄を待ちながら』とセットでお読みください。

シルトの岸辺 (ちくま文庫)

シルトの岸辺 (ちくま文庫)


分類不能
ラファティ『悪魔は死んだ』(サンリオSF文庫)(!)
 悪魔は死んだ。あんたが殺した。――ジョイスフィネガンズ・ウェイク』の二次創作、と言っただけで、これがたいへんな奇書であることがお分かりいただけるはず。

悪魔は死んだ (サンリオSF文庫)

悪魔は死んだ (サンリオSF文庫)