ソーントン・ワイルダー『わが町』
悪くないんだけど、ちょっと軽すぎるよなあ。メタフィクション性もぜんぜん甘いしね(古典だからという言い訳は通用しない。もっとずっと古いコルネイユ『舞台は夢』は、もっとずっと鮮やかにメタ性と筋の展開をからめている)。「ドイツ現代戯曲選」は(これまでに読んだ六冊は)どれもかなり派手だったのにひきかえ、この本はちょっと読み応えが足りない。
- 作者: ソーントンワイルダー,Thornton Wilder,鳴海四郎
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2007/05/24
- メディア: 文庫
- 購入: 7人 クリック: 44回
- この商品を含むブログ (35件) を見る
ヨーロッパなんか遊び歩いたりしてみろ、このグローヴァーズ・コーナーズの町がいやになっちゃうかもしれない。ここがいいんだからこれでいい。(第一幕。31ページ)
小さな町グローヴァーズ・コーナーズに住む人々の日常を描いた作品。筋は主にギブズ家とウェブ家の二家族を中心として展開する。第二幕ではギブズ家のジョージとウェブ家のエミリーの恋愛と結婚が描かれ、第三幕では死んだエミリーが少女時代のある誕生日を追体験し、生きている間はかけがえのない日常を浪費してきたことを悟って、悲嘆に暮れる。
いま読むにはちょっと古いよな、というのが正直な感想。日常生活の価値というテーマは、さまざまな作品で取り上げられてもう新鮮さがなくなっている。軽いタッチで描かれる日常の風景は、読んでいてそれなりに楽しいけれど衝撃性には欠けている。セリフの所々に現れるユーモアは、まあ、悪くない。
舞台上に幕をはじめあらゆる道具をセットしないところや、「舞台監督」がたびたび登場して登場人物と会話したり、時には登場人物になりきって演じたりするところなど、メタフィクション志向が見られるが、これも現代の読者・観客にとってはさしたる意外性のないところだろうと思う。このところ「ドイツ現代戯曲選」を通していくつか奇抜な戯曲を読んでいるからか、たいして驚きはなかった。