アレクサンドル・ブローク『薔薇と十字架』
1995年に出た本。私は古本屋で入手したけれど、平凡社のウェブサイトを見るとまだ在庫があるようだ。書店の店頭にはほとんど残っていないだろうけど、注文すれば入手できるので、興味がある人はどうぞ。
- 作者: アレクサンドルブローク,小平武,鷲巣繁男
- 出版社/メーカー: 平凡社
- 発売日: 1995/11/01
- メディア: 新書
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人生とは三度繰り返して美しいと言えるもの!(第二幕。74ページ)
カタリ派とアルビジョワ十字軍の戦いに混乱する中世フランスを舞台にした詩劇。ラングドックの城の警護役「不幸な騎士」ベルトランは、密かに城主伯爵の夫人イゾーラに恋していた。あるときベルトランは、カタリ派に悩まされる伯爵から、モンフォール伯の援軍が近くまで来ているかどうか確かめてくるよう命じられる。ベルトランは出発に先立ち、夫人イゾーラからも、ある遍歴の詩人を探してこいとの密命を受ける。二つの命令を果たして城に帰還したベルトランだが、その思いは報われず――。
中世を舞台にしているけれども、叙事詩的な英雄趣味は薄めで(作者自身も「ベルトランはヒーローではない」と言っているとのこと)、むしろ叙情性の強い物語になっている。軽薄な登場人物たちがそれぞれ類型的な幸福をつかんでいく中、「喜びたる苦しみ」に倒れるベルトランの独白が美しくも悲しい。
しっとりと切ない読後感を残す可憐な佳品で、さしずめ文学史にかすかな香りを残した小さな薔薇といったところ。ただ、百花繚乱それぞれが強烈な芳香を放っているロシア文学史上においては、やや地味で物足りないところもあるように感じてしまう。