書物を積む者はやがて人生を積むだろう

和書を積んだり漢籍を積んだり和ゲーを積んだり洋ゲーを積んだり、蛇や魚を撫でたりする。

アルフレッド・ベスター『ゴーレム100』

 『虎よ、虎よ』がSF屈指の名作に数えられる理由はわからなかったんだけど、この『ゴーレム100』の凄さはわかった。くだらないパルプだと切り捨てる人がいても驚かないけどね。

ゴーレム 100 (未来の文学)

ゴーレム 100 (未来の文学)

「ぼくらが置かれている環境は激烈に変化している」とロイツが続ける。「その一つが、視覚と聴覚で耐えられないほど感覚を打ち壊されること。だからRx精神病院には大勢の狂人がいるんだ。とんでもない現実を拒絶した無数の人たち」じっと考える。「そいつらが正気で、それに耐えているぼくらが狂ってるのかもしれない」(313ページ)

 舞台は22世紀の巨大スラム街<ガフ>。この街に住む有閑階級の八人の貴婦人が暇つぶしのために行った儀式によって、悪魔ゴーレム100が降臨、次々と惨殺事件を引き起こす。事件を受け、インド出身の敏腕警官インドゥニ、天性の嗅覚を持つ科学者ブレイズ・シマ、ツチ族の精神工学者グレッチェン・ナンの三人が、ゴーレムに迫ろうと試みるが――。

 読むまでもない。ぱらぱらとめくって見てみるだけで、怪作の名に相応しい小説であることがわかる。中盤以降しばしば挿入される奇怪なイラストの数々、謎の楽譜、妙ちくりんな文章。さて読んでみれば――いやはや、なんとも下品で安っぽい小説であることよ! 三人の主人公のキャラクターも、相互の関係もありきたり、ストーリー進行も強引(描写を省いてほとんどセリフだけで筋を引っ張っているところもあり)、しかも全篇エロ、グロ、ナンセンスのオンパレード。かくも三文小説の要素を揃えながら、しかしこの作品、傑作だと思う。奇怪な文体奇怪なイラスト、そして何より、これでもかと詰め込まれた、一読爆笑の奇想の数々によって、この小説は、文学史の中でもまれに見るほどの疾走感と存在感とを備えている。とりわけ作品終盤のランチ期――おっと、乱痴気騒ぎのテンションの高さは特筆に価する。