マイクル・ムアコック『ブラス城年代記』全3巻
ムアコックはもうこれで4シリーズ・16冊目か。随分たくさん読んできたもんだ。
いわゆる「剣と魔法」のヒロイックファンタジーとはいえ、事物の描写や物語の運び方、世界観などには凡庸な「剣と魔法」ものとは一線を画しているものがある――というか、うん、やっぱり派手だから、そこがいい。
- 作者: マイケルムアコック,Michael Moorcock,井辻朱美
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わしは昔から文字通りの意味で、頭の切れる男ではなかったわ。が、いまは疲れた男になりつつある。きみの考えも疲労のせいではないのかね」
「怒りのせいかもしれません」(3巻「タネローンを求めて」、22ページ)
『ルーンの杖秘録』の続編で、『ブラス伯爵』『ギャラソームの戦士』『タネローンを求めて』の三部からなるシリーズ。暗黒帝国との戦いを終えたホークムーンは、戦死したはずのブラス伯の亡霊がカマルグ城下を彷徨っているとの噂を聞き、確かめに出かける。このことをきっかけに、ホークムーンは再び冒険の渦中に身を置くことになる。
合計700ページ弱と、これまで読んできたムアコックの<永遠の戦士>ものの中ではもっとも短いが、そのぶん中身は濃い。まず第一部『ブラス伯爵』では『ルーンの杖秘録』の結末がぐるりとひっくり返される。そして『ギャラソームの戦士』と『タネローンを求めて』では、ムアコックお得意の多元宇宙やら戦士の転生やらが飛び出して、『ルーンの杖秘録』では薄めだったファンタジー色、SF色が急に濃くなっていく。時間やら出来事やらはどんどん不安定になり、読んでいるほうとしても油断できなくなる。それでいて、エルリックの新三部作やエレコーゼの『剣のなかの竜』のような読みにくさがないのも評価したいところで、緻密な世界設定よりも物語の勢いを求める私のようないい加減な読者でも十二分に楽しめる。
とりわけ『タネローンを求めて』は、<永遠の戦士>もの全体の完結篇ともなっていて、ホークムーンのほかエルリック、エレコーゼ、コルムの三人も登場し、それぞれの結末が描かれるので、ほかのシリーズを読んだらこれも読まないわけにはいかないだろう。多少、うまくまとまりすぎている気はするが(だからこそ、ムアコックはこのシリーズのあとも<永遠の戦士>ものを書き続けたのだろうか)。