ピエール・ガスカール『けものたち 死者の時』
ぺらりとページをめくると、「本書は1955年、岩波書店より単行本として刊行された――編集部」と書いてある。半世紀前の単行本を平気な顔して文庫化するあたり岩波はえらい。ただ、せっかく半世紀ぶりの復刊文庫化なんだから、数ページの文庫版解説くらいつけてくれてもいいものを。
- 作者: ピエールガスカール,Pierre Gascar,渡辺一夫,佐藤朔,二宮敬
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2007/09/14
- メディア: 文庫
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「けものたち」のうちの「馬」「けものたち」「彼誰時」の三篇、それに「死者の時」は軍隊生活や軍隊での捕虜生活を背景にしているが、第二次大戦当時のフランス軍やドイツ軍の軍隊生活の環境がいまひとつつかめず、話に乗っていけなかった。一方、屠殺業を扱った「真朱な生活」やネズミ駆除の話「ガストン」のような、日常の市民生活に潜む緊張や狂気を扱った作品はわりあい読みやすく迫力もあった。とりわけ「ガストン」はこの作品集でいちばん楽しめたと思う。ネズミの発生に苦慮する公務員の精神の緊張を中心にしつつ、ネズミをちょっと愛嬌ある存在として描いているあたり、暗さと明るさが相半ばしていていい。
文章は冗長さがなく、きりっとしまっていて、時折幻想の色が混じる。いいかげんに読んでいると肝心なところを読みおとし、そのうち話についていけなくなってしまう。もっと体調のいいときに読んだほうがよかったかもしれない。