書物を積む者はやがて人生を積むだろう

和書を積んだり漢籍を積んだり和ゲーを積んだり洋ゲーを積んだり、蛇や魚を撫でたりする。

ピエール・ガスカール『けものたち 死者の時』

 ぺらりとページをめくると、「本書は1955年、岩波書店より単行本として刊行された――編集部」と書いてある。半世紀前の単行本を平気な顔して文庫化するあたり岩波はえらい。ただ、せっかく半世紀ぶりの復刊文庫化なんだから、数ページの文庫版解説くらいつけてくれてもいいものを。

けものたち・死者の時 (岩波文庫)

けものたち・死者の時 (岩波文庫)

 短篇集「けものたち」と中篇「死者の時」の合本。「けものたち」は、軍の厩係や屠殺業者のもとで働く少年、ネズミ駆除に奔走する市衛生課の役人などを主人公として、人と獣の争いを主題に据えている。「死者の時」は、作者自身がドイツ軍のもとで捕虜になっていた際、墓穴掘りをさせられた経験をもとにした作品。

 「けものたち」のうちの「馬」「けものたち」「彼誰時」の三篇、それに「死者の時」は軍隊生活や軍隊での捕虜生活を背景にしているが、第二次大戦当時のフランス軍やドイツ軍の軍隊生活の環境がいまひとつつかめず、話に乗っていけなかった。一方、屠殺業を扱った「真朱な生活」やネズミ駆除の話「ガストン」のような、日常の市民生活に潜む緊張や狂気を扱った作品はわりあい読みやすく迫力もあった。とりわけ「ガストン」はこの作品集でいちばん楽しめたと思う。ネズミの発生に苦慮する公務員の精神の緊張を中心にしつつ、ネズミをちょっと愛嬌ある存在として描いているあたり、暗さと明るさが相半ばしていていい。
 文章は冗長さがなく、きりっとしまっていて、時折幻想の色が混じる。いいかげんに読んでいると肝心なところを読みおとし、そのうち話についていけなくなってしまう。もっと体調のいいときに読んだほうがよかったかもしれない。