書物を積む者はやがて人生を積むだろう

和書を積んだり漢籍を積んだり和ゲーを積んだり洋ゲーを積んだり、蛇や魚を撫でたりする。

アルトゥール・シュニッツラー『輪舞』

 戯曲祭り二日目〜。

輪舞 (岩波文庫)

輪舞 (岩波文庫)

(私が読んだのは新潮文庫版だが、Amazonに登録されてないので岩波版をのせておく)

「でも、女房のある男を誘惑して不実を働かせても、君は格別なんとも思いやしないだろう?」
「まあ、何をおっしゃるの。あんたの奥さんだって、きっとあんたと同じことをやってるわ」
「おい、君、そんなことを言うのはおことわりするぜ。そんな言い草は」(78ページ)

 戯曲。「夜の女」と「兵士」、「兵士」と「小間使い」、「小間使い」と「若だんな」、「若だんな」と「若奥さま」、「若奥さま」と「夫」、「夫」と「おぼこ娘」、「おぼこ娘」と「詩人」、「詩人」と「女優」、「女優」と「伯爵」、「伯爵」と「夜の女」とこう、一人ずつ交代しながら10組のカップルを登場させ、性交前後の掛け合いを軽快に描く。

 同じ作者の小説『みれん』はいまひとつ楽しく読めなかったが、こちらもなんだか乗っていけなかった。きわどい場面の前後を描きながら、場面を淫猥におとさず軽妙軽快にさばいているところが売りなのだろうが、軽すぎてパンチが足りない。「人間はいかに他人のことを知らないか」ということを描いてみても、そんなことは自明のことだし、ウィーンの風紀の退廃にしても、現代人から見ればなんてことないのでは。
 終わり近くまで読んだら、なぜ私がこの作品を物足りなく感じたかわかった。似たような主題・構成を持ちつつ、もっと複雑でもっと軽快でもっと現代的な作品をもう読んだからだ。これだ。

前と後 (ドイツ現代戯曲選30)

前と後 (ドイツ現代戯曲選30)

 いま読むなら『輪舞』よりこちらをお薦めしたいと思う。そしてすでに『輪舞』を読んだ人にも、ぜひこの『前と後』を読んでみて欲しい。