書物を積む者はやがて人生を積むだろう

和書を積んだり漢籍を積んだり和ゲーを積んだり洋ゲーを積んだり、蛇や魚を撫でたりする。

マティアス・チョッケ『文学盲者たち』

 ドイツ現代劇、20冊目。

文学盲者たち (ドイツ現代戯曲選30)

文学盲者たち (ドイツ現代戯曲選30)

なんであなたは人生がどうのこうのと、寝ぼけたことを言うんです、人生に向き合おうだなんて?! ――人生こそもっと我々に向き合ってくれるべきじゃないですか!(87ページ)

 若い文学賞受賞者のズザンナは、授賞式で緊張のあまりおかしなスピーチをしてしまう。これが上流社会の人々の不評をかい、ズザンナと、賞の審査委員ゼート博士の運命は意外な方へ向かっていく。

 変化球の多い「ドイツ現代戯曲選」シリーズのうちでは、珍しく人生というものをストレートに扱っている作品(それでも古典劇の筋に比べれば、いくらか曲がったり落ちたりする直球だが)。ヒロインは作家だが、文学の薀蓄や創作の苦悩は扱われず、それよりは生活の苦悩とか環境からの圧迫とかが描かれている。
 老若、男女、さまざまな背景をもつ登場人物たちの、互いの微妙な関係、微妙な距離感がなかなか繊細に描かれていていい。また、ちょっと不条理劇みたいなところもあって、笑える場面やせりふも随所にある。終わりのほうの場面にはお色気も用意してあるし、なにより人生を正面から扱っても、話が重くならないのがいい。おまけに、ヨーロッパではいまだに「上流階級」とかいう人々が絶滅していないのもわかる(1990年代の作品に、バルザックの小説からそのまま抜け出てきたような社交界の人々が登場するとは思いもよらなかった)。