書物を積む者はやがて人生を積むだろう

和書を積んだり漢籍を積んだり和ゲーを積んだり洋ゲーを積んだり、蛇や魚を撫でたりする。

アウグスト・ストリンドベリ『夕立ち』

ストリンドベリイ小作品―夕立ち(稲妻)他2編

ストリンドベリイ小作品―夕立ち(稲妻)他2編

私たちは最初から――いつでも飛び出せるように――走りながら生活していたのですわ。(66ページ)

 『ストリンドベリイ小作品』は、戯曲「夕立ち」「より強きもの」と短篇「恋とパン」の三篇を収録している。うち、「夕立ち」が100ページほどと多少長く、他の二篇は20ページ前後である。
 「夕立ち」はかつて『稲妻』という題で岩波文庫からも出ていた作品。アパートで親戚の娘とともにゆったり静かに暮らしている老人、そのアパートの二階には、実は老人のかつての若妻イェルダが、山師の現夫と暮らしていた。ある出来事をきっかけに、老人とかつての妻は再会するが――という話。
 登場人物がおおむね満ち足りた環境におり、また性格も温和であるためか、前半部分の展開はゆるやかで、セリフまわしも穏当である。だからこそ、老人とイェルダの再会場面の、それぞれの感情の昂揚や高ぶったやりとりが際立つのだろう。要所要所で稲光による場面の演出があるが、これも印象的。それでも、前に読んだ『死の舞踏』に比べれば、若干地味めな感じではある。

 「より強きもの」は既婚と独身の二人の女優のやりとりを描く小作品。といっても、しゃべるのは既婚のほうの女優だけ。話しているうちに興奮してきて、ついには逆ギレ気味になってまくしたてるあたり、小作品ながらいかにもストリンドベリ的。
 「恋とパン」は新婚夫婦の浪費生活を描いた短篇。特に斬新な点も巧妙な描写もなく、正直なところ物足りない。他の二篇に比べると数段落ちると思う。やはり戯曲のほうがストリンドベリの本領なのだろうか。