エミール・ゾラ『ナナ』
- 作者: ゾラ,川口篤,古賀照一
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2006/12/20
- メディア: 文庫
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ナナに乗るのは誰だ?(537ページ)
ルーゴン=マッカール叢書第九巻。ヴァリエテ座の女優ナナは、演技は大根ながら肉体の魅力で劇場の観客を熱狂させる。かくて華々しくパリの表舞台に登場したナナは、さまざまな恋愛遍歴を経たのち、放恣と退廃の中へ入り込み、交際相手の貴族たちを次々に破滅させていく。
『居酒屋』と並んでゾラの代表作とされる『ナナ』、個人的には『ナナ』のほうが、浮沈の激しさといい、場面の多彩さといい、より面白い作品であると思う。自由に無邪気に飛び回り、意図せずして触れたものを次々腐敗させる「金蝿」ナナの存在感は強烈。また、熱狂・躍動する群衆描写の筆の冴えも見事というほかなく、特に11章の競馬の場面は圧巻である。
おわりのほうの章では、それまでの章で各人各様の性格を見せてきた貴族や金持ちたちが、ナナの屋敷で次々に狂態を演じて破滅していくさまが描かれているのだが、小説のクライマックスたるこのあたりの展開は、つい唖然としてしまうほど常軌を逸していて、たいへんすばらしい。なんだかソローキン『ロマン』のラストの虐殺シーンを思い出してしまった(つまり、小説の結束に向かって、それまでに組み上げられてきた要素――主に登場人物――が、尋常ではない速度で取り除かれていくので。もっともゾラは、ソローキンみたいな、野蛮で現代的な取り除き方はしていないが)。