アラスター・グレイ『哀れなるものたち』
- 作者: アラスター・グレイ,高橋和久
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2008/01/26
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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真実と善はわたしがどうこうできるものではないよ、ベル。わたしは弱すぎる存在なんだ。ブレシントン将軍と同類の哀れなるものなんだ。ふたりを軽蔑する用意をしておいてくれ。(288ページ)
時は19世紀末、医師ゴドウィン・バクスターは、入水自殺した女性に、彼女の胎児の脳を移植して蘇生させる。かくして誕生したベラ・バクスターは、さまざまな土地を遍歴したのち、ゴドウィンの親友アーチボールド・マッキャンドレスと結婚する。マッキャンドレスはこの経緯を回想録に書き残した。20世紀末に至り、その本を発見し、その記述を事実と確信した小説家アラスター・グレイは、これに序文を注をつけて編集・出版した――。
体裁からしてメタフィクションのにおいがぷんぷんするし、読んでいる最中にも、どうやらいろいろ仕掛けがしてあるらしい、という気がしてならなかったのだけれど、グレイの(マッキャンドレスの?)語り口がうますぎて、つい細部に注意を払うことをせずに先へ先へ読み進めてしまった。SF的なガジェット、ゴシック風味の怪しげな描写、成長物語、サスペンス風なやりとりなど、多彩な場面で飽きさせないし、キャラクターも立っていて、特にベラの爛漫・奔放な性格描写が光る。
『ラナーク』を読んだときも思ったのだけれど、どうもアラスター・グレイという人の本質はストーリーテラーであるような気がする。それも、特異な構成や体裁、様々な文体や形式、さらには古典へのオマージュとか挿絵(インパクトがある絵が描けるということは、小説家にとっては強力な武器になるようだ)なども利用する現代式のストーリーテラーだ。彼の小説は物語としてまず文句なしに面白いし、だから手を出しかねている人も、『ラナーク』『哀れなるものたち』のどちらでもいいから、とりあえず気楽に読み始めてみるといいと思う。敬遠して読まないのには惜しい作家。