ヘンリク・イプセン『野鴨』
久しぶりのイプセン。
- 作者: イプセン,原千代海
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1996/05/16
- メディア: 文庫
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「うん、不思議なくらい元気にね。すっかり太ってさ。何しろ、あんなところにずっといるもんだから、本当の野生の生活がどんなものか忘れちまってね。うまくいってるのは、そのせいなんだよ」
「そりゃそうだろうな、ヤルマール。海や空を絶対に見ない限りは――」(83ページ)
エクダル老人は、かつて豪商ヴェルレの共同経営者だったが、不正のかどで逮捕されて零落した。エクダルの息子ヤルマールは、かつてヴェルレの召使だったギーナと結婚し、彼女との間にできた娘ヘドヴィク、父のエクダルとともに、ささやかに暮らしていた。ヴェルレの息子グレーゲルスは、ヤルマールの生活は虚偽の上に築かれたものだと見抜き、彼に「真実」を告げる。
サスペンス的な要素を含んで展開するため読んでいて緊張が解けない、つまり読んでいて単純に面白い。人物がなかなか巧妙に対照されている(ヘドヴィクとヴェルレ、ギーナとセルビー夫人、グレーゲルスとレリングなど)ところも印象深い。テーマも深刻で、終わりのほうの場面でのグレーゲルスとレリングの会話を読んだときには、思わず頭を抱えて溜息をつきたくなった。二律背反。
というわけで、イプセンの最高傑作という評判も納得の迫力ある戯曲だった。が、ヘドヴィクのキャラクターが十四歳の娘にしては、そしてこの作品に準主役級で登場してくるにしては、純真すぎるのが私としては納得のいかないところ。彼女のあの結末は、ちょっとメロドラマ的なのでは?