ダニロ・キシュ『若き日の哀しみ』
- 作者: ダニロキシュ,Danilo Kis,山崎佳代子
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 1995/07
- メディア: 単行本
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だって、それらの物がなければ、その手書きの書類や写真がなければ、今ごろ僕は、なにもかも存在しなかった、すべてはあとから夢に見た話で、僕が自分を慰めるために考えついたことだと、すっかり思い込んでいるにちがいない。(125ページ)
自伝的な連作短篇集で、『庭、灰』『砂時計』とともに家族三部作をなす。分身であるアンドレアス・サムに仮託して、作者が幼少時代に体験したことが視点・人称を変えつつ語られる。
全体を支える大きな仕掛けとつかみがたい語り口を持つ『砂時計』とは対照的、同じく戦時下の少年を主人公にしたアゴタ・クリストフ『悪童日記』のようなどぎつさもなく、叙情性を押し出した内容で、ソフトでウェットな感触の作品になっている。みずみずしい描写と行間に漂う哀感が光る秀作だが、『砂時計』の濃密な作品世界に比べると、さすがに遜色がある。内容は互いに関連しているので、入手できるなら、両方とも読むのがお薦めである。
三部作のうち、残る『庭、灰』も近々翻訳されるということなので楽しみに待ちたい。