書物を積む者はやがて人生を積むだろう

和書を積んだり漢籍を積んだり和ゲーを積んだり洋ゲーを積んだり、蛇や魚を撫でたりする。

トーマス・ベルンハルト『座長ブルスコン』

 ドイツ現代劇24冊目。ベルンハルトを読むのはこれが初めて。

座長ブルスコン (ドイツ現代戯曲選)

座長ブルスコン (ドイツ現代戯曲選)

ガキのころから罠ばかり仕掛けてた(38ページ)

 座長ブルスコンは妻と二人の子供を連れて各地を巡り、自作の芝居『歴史の車輪』を上演している。田舎の村ウッツバッハの宿のダンスホールで、上演前の準備をしつつ、ブルスコンは宿の亭主や家族を相手にしゃべり続ける。

 240ページの戯曲のほとんどをブルスコンの台詞が占める、おそろしく饒舌な劇。役者は台詞を覚えるのに苦労しただろう。
 台詞の中身は演劇論から政治風刺まで。腹を立てたと思えばすぐ機嫌を直してしまうブルスコンのキャラクターはすこぶる喜劇的。宿屋の亭主やブルスコンの家族による、淡々とした応答や合いの手とブルスコンのお喋りの長大さの対比もなんともおかしい。
 とはいえ、愚にもつかないことを喋っていると思えば、いきなり鋭い警句が混じったりもするのでなかなか油断できない。演劇に関する演劇という面も強く、

そしてわしの喜劇の
台詞ときたら尋常の長さではないのだ(23ページ)

 こんなふうにセルフパロディもお手の物。
 なかなか刺激的な作品だが、めちゃくちゃ難解というわけでもなく、笑えるところではしっかり笑わせてくれるのもよい。