余華『兄弟』全二巻
- 作者: 余華,泉京鹿
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2008/06/25
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「だからオレは男女関係はやらないんだ」。李光頭は得意げに言った。
やがて俗世に別れを告げようとする侠客みたいに手を振って、連中の真ん中を通り抜け、何歩か歩いてから戻ってくると、激しい世の中の移り変わりを体験し尽くしたといわんばかりに言った。
「オレはインポなんだよ!」
連中はひとしきり笑いどよめいた。李光頭はまた気持ちを奮い立たせ、キリリと顔を上げて去っていった。電柱の脇を通り過ぎるとき、ついでにけっ飛ばしてもはや電柱への愛を断ち切ったことを示した。(上巻、143ページ)
再婚夫婦である宋凡平・李蘭夫婦の、それぞれの連れ子である李光頭と宋剛は、少年時代一緒に文革期を乗り切ったが、開放時代に入ると恋愛沙汰のために訣別し、対照的な半生を送ることになる。
小説を読む楽しみをしっかり味わわせてくれた。読者を一度も退屈させない、こってりと濃ゆい900ページ。下品なところや俗っぽいところは相当あるし、時にはメロドラマじみた場面も出てくるけれど、その下品さにしてもこの濃密さのためには必要不可欠なものだろうな。
特筆すべきは転んでもただでは起きない主人公・李光頭のトリックスターぶり。奇想天外なことを思いついては、縦横無尽に動き回りしゃべりまくって、小説世界をおおいにコミカルに盛り上げている。即物的だが単純で、「愛すべき」という言葉を冠したくなる脇役陣も、みながみないい味を出していていい。
主人公と同じくらいノリがよくて、ときどき大仰過ぎるくらいに大仰な地の文の語り口も魅力。