ジュール・ヴェルヌ『機器島』
機器島
ヴェルヌ 著 劉常津・侯合余 訳
訳林出版社
2008年8月
「どこにいようと、人はすべて死ぬものですから」
「ここではそうではないのですよ、あなた、天国では人は死なないのです」(139ページ)
海上を移動する人工の機械島「標準島」、その上にある「十億都市」では、アメリカの富豪たちが享楽的な生活を送っていた。この都市に案内された四人の音楽家は、街の珍妙な文化と、標準島が停泊した太平洋の島々の様子を見聞する。
中国語で西洋文学を読み通したのは初めて。これまでもパムク、エーコなどに挑戦したことはあったけれど、あえなく挫折してしまっていたので。
風刺SFとしてはなかなかいい感じで、十億都市の技術や文明を描写する筆さばきはかなり冴えている。インターネットショッピングを思わせる記述が出てきたときは思わず膝を打って感服したものだ。四人の音楽家の性格からか、ほどよくユーモラスな会話も多くていい。
ただ、小説の大半を占める太平洋の島々の記述はかったるかった。当時の読者はこういう記述にエキゾチズムを感じて面白がったのかもしれないが、現代の我々はテレビなどを通してこのあたりの事情はなんとなくわかっているので…。いちいち説明される地理の記述も、細かくて煩わしく感じた。