書物を積む者はやがて人生を積むだろう

和書を積んだり漢籍を積んだり和ゲーを積んだり洋ゲーを積んだり、蛇や魚を撫でたりする。

トマス・ピンチョン『競売ナンバー49の叫び』

競売ナンバー49の叫び (ちくま文庫)

競売ナンバー49の叫び (ちくま文庫)

「あなた、ズボンの前があいてます」(259ページ)

 これ、最後から二番目のページにあるセリフである。結末間近の緊迫した場面でこれかよ。

 女主人公・エディパは、かつての愛人で大実業家であるピアス・インヴェラリティが、自らの死に際して彼女を遺産管理執行人に任命してきたことを知らされる。ピアスの遺言の意図が分からず、また彼の事業の巨大さを考え途方に暮れるエディパ。とりあえずピアスの拠点であるサン・ナルシソ市へ行って遺産の調査を始めるエディパの前に、アングラな郵便組織「トライステロ」の影がちらつき始める――とあらすじはこんな感じ。

 ピンチョンの長編小説の中ではとっつきやすいと評判の作品。つまり「ピンチョンの中では」と頭につけないといけない程度の難物でもある。どこがとっつきにくいかといえば、膨大な情報を長大な文章で書き記しているのに、それが筋にとって重要かそうでないか判別がつきにくいところだろうと思う。だから筋がどう展開していくか予想もしにくい。たとえば冒頭付近、エディパの夫であるムーチョが過去に勤めていた中古車市場の情景が感傷的に(そこそこの文章量を用いて)描写されているが、これなんかは話の展開にはほとんど関係しない。いや、いい文章なんだけどね。
 一言でまとめると非公式の郵便制度という鍋を用いて合衆国のアングラな文化をごった煮した感じか。濃いけどかなり俗っぽい。俗っぽさを隠そうともしないあたりが良い。