トム・ストッパード『ロックンロール』
トム・ストッパード (2) ロックンロール ((ハヤカワ演劇文庫 27))
- 作者: トム・ストッパード,小田島恒志
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2010/07/30
- メディア: 文庫
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「ふーん、ま、イロウスのことだから、パブで他人を侮辱するのも芸術だと思ってるのかもしれない」
「お前たちのやってる事はマスターベーションだと思ってるしな」
「そうなのか?」
「政府公認の反対勢力だって」(98ページ)
プラハの春からビロード革命にいたるまでのチェコ現代史を扱った歴史劇。ケンブリッジで共産主義者の教授マックスから人文学を学んでいたヤンは、プラハの春、ソ連の介入を聞いて祖国へ舞い戻る。西側で自己形成し、西側の音楽を愛するヤンは、チェコにおける反体制の政治活動やアングラなロックバンドの活動にかかわったり距離を置いたりしながら、革命までの時間を過ごしていく。
「ロックは世界を変えられるのか?!」という帯の惹句が青臭くて良い感じ。『コースト・オブ・ユートピア』では実在の人物ゲルツェンを通して19世紀ヨーロッパの思想や文化、もっと大きく言えば雰囲気のようなものを分かりやすく描いていたストッパードだが、この戯曲でもそういう「時代の空気」をかもし出す実力は健在。政治とロックという一見不思議な組み合わせの素材を通し、史実をからめて、イギリスとチェコのさまざまな世代の人物の思想と葛藤を、白熱した対話によって描き出していて、なかなか読み甲斐がある。
ヒロイズムは、決して誠実な行いとは言えない。少なくとも、世界を動かすものじゃない。(106ページ)
なんて刺激的なセリフもあったり。
クンデラとハヴェルの実際の議論を踏まえた対話もあるとのこと。クンデラといえば、大学一年のころに『存在の耐えられない軽さ』を読んでうまく消化できずに終わってからずっと敬遠してしまっている。そろそろ再挑戦してみるか。