書物を積む者はやがて人生を積むだろう

和書を積んだり漢籍を積んだり和ゲーを積んだり洋ゲーを積んだり、蛇や魚を撫でたりする。

イタロ・カルヴィーノ『まっぷたつの子爵』

 二日連続でいちおし。

まっぷたつの子爵 (ベスト版 文学のおくりもの)

まっぷたつの子爵 (ベスト版 文学のおくりもの)

そしておまえはすべてのものがまっぷたつになることを望むだろう、おまえの姿どおりにすべてのものがなることを。なぜなら美も、知恵も、正義も、みな断片でしか存在しないからだ。(78ページ)

 「われらの先祖」三部作の第一作にして、カルヴィーノの転機となった作品。トルコとの戦争で大砲に撃たれ右半身だけの身体となったメダルド子爵は、悪の権化となって領内に君臨する。そこへ、善の化身のような残りの左半身がやってくる。

 メダルドの甥の少年による一人称語りで語られるのだが、この語りがこの小説の第一の魅力。凄惨な戦争の情景も、メダルドの悪辣な所業も、愛すべき奇人たちとの交友も、みな同じような調子で淡々と語る。その淡々のうちに染み出すユーモア、ペーソス、そして凄まじさ。
 第二の魅力は奇人変人のオンパレード。これは三部作共通の特徴で、この作品も例外ではなく、善悪二人に分かれたメダルドをはじめ、人魂の研究に打ち込むトレロニー医師、遊蕩にうち興じる癩病患者たち、祈りの言葉も忘れてしまったユグノーたち、そしてメダルドに恋されることになる、動物と話をすることができ、暗号を読み解くことに長けた牧場の娘パメーラなど、楽しい登場人物がわらわらと出てくる。
 風刺や、寓意・教訓めいた要素も多々ふくまれているのだが、少しも露骨にならず、少しも説教臭くなっていないのもいい。
 深くも読めて、途方もなく楽しい逸品。