ヨシップ・ノヴァコヴィッチ『四月馬鹿』
- 作者: ヨシップノヴァコヴィッチ,Josip Novakovich,岩本正恵
- 出版社/メーカー: 白水社
- 発売日: 2008/03
- メディア: 単行本
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「兄さんは政治家だよな? みんなあんな感じなのかい?」
「多かれ少なかれな」アルドは答えた。「政治の世界で成功するためには、大量のテストステロン、すなわち男性ホルモンが必要なのさ。持ってるんなら、使うわけで、いたるところでやりまくるわけだ」
「この国がめちゃくちゃなのも無理ないな。脳みそが精液でできてる人間が、どうやって仕事するんだよ?」
「そうじゃないやつなんていないだろ?」
「ぼくは違う。医者になるためには、十分な自己鍛錬が必要だからね」
つぎの週、イヴァンは気が散ってしかたなかった。きれいな女の人が通りかかるたびに、物欲しい気持ちになった。(56ページ)
四月一日に生まれたイヴァンは、少年時代・青春時代をチトー政権下で過ごし、その後ユーゴ内戦とクロアチア独立を体験するが、ことあるたびに冗談のような事態に巻き込まれる。
300ページ弱の短めの小説ながら、扱っている時代は半世紀にわたる。その分、緊密な構成とかストーリーの一貫性という点は弱めで、短い章ごとのエピソードに重点が置かれている。
陰惨を通り越してシュールなシチュエーションが淡々とした筆致で語られるので、なかなか笑える(この、悲惨な境遇をユーモアにして笑い飛ばすしたたかさ!)。また、ユーゴスラヴィアの現代史、というか、チトー時代や内戦時代の社会・風俗の情勢もよくわかる。
それにしても、ユーゴの作家には外れがないよなあ。