書物を積む者はやがて人生を積むだろう

和書を積んだり漢籍を積んだり和ゲーを積んだり洋ゲーを積んだり、蛇や魚を撫でたりする。

ジャン・ジロドゥ『オンディーヌ』

オンディーヌ (光文社古典新訳文庫)

オンディーヌ (光文社古典新訳文庫)

「あなたが食べるもの、それがあたし」
「この塩かげんがいいですね、絶妙だな」
「あたしを食べて! ぜんぶ食べて!」(46ページ)

 フケーの『ウンディーネ』に基づく三幕の戯曲。漁師オーギュストのもとに立ち寄った騎士ハンスは、美少女オンディーヌと恋に落ち結婚する。しかし、本性が水の精であったオンディーヌは、人間の社会に溶け込むことができない。

 ――という話ではあるのだが、台詞回しは全般的にコメディ調。平凡な性格の登場人物たちが、本物の天然娘たるオンディーヌに振り回される様子がコミカルに描き出されていて、ライトな感触のこなれた訳文(オンディーヌが「いってよし」とか言うんだぜ?)とあいまって、にやにや笑いながらさっくりと読み進められる。フケーの小説とは異なる結末も、大いに盛り上がっていてなかなかよい。
 ただし、シラー『オルレアンの少女』とアヌイ『ひばり』を比べた場合も同じなのだけれど、喜劇・性格劇という面が強まった分、神話的な空気というか、ファンタジックな雰囲気という点では『ウンディーネ』から後退している気がする。
 同じ時代のフランス劇として、アヌイ『ひばり』と比べると、構成の面白さでは互角だと思うけれど、機知と会話の魅力という点で『ひばり』のほうが好み。