ゲルハルト・ハウプトマン『沈鐘』
戯曲祭り六日目。そろそろ小説が読みたくなってきた。

- 作者: ハウプトマン,阿部六郎
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1934/07/15
- メディア: 文庫
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この泪を、牧師さん、乾かすことが私の力に及ぶなら――
どんなにそうしてやりたいでしょう! だが私にはできないのだ。
悩みの刻に思いえぐって、私はひたすら感ずるのです、
今これを鎮めることは私には許されていないと。(174ページ)
鐘作りのハインリッヒは、鐘を運搬している途中に運搬事故に遭い重傷を負う。瀕死の彼を助けたのは、山に住む少女ラウテンデラインだった。ラウテンデラインの魔術によって傷が癒えたハインリッヒは、谷の村を去ってラウテンデラインとともに生活するようになる。
ハウプトマンより百歳ほど年上の作家たち(具体的にはフケーとか)が好んで書いていたようなタイプの作品だった。情熱的なハインリッヒ、ラウテンデラインから、不気味ながらも憎みきれない森や水の魔物たちに至るまで、登場人物たちのキャラクターがことごとくロマン派的な色彩を帯びている。北欧神話を根っこに据えているあたりもロマン派好みなところだろう。
百年前に書かれた『織工』と、百年前に書かれた二百年前の本みたいな作品『沈鐘』、どちらかといえば『沈鐘』のほうが好み。言葉も綺麗だし、ヒロインのラウテンデラインもかわいい。フケーの『ウンディーネ』が好きな人はこの作品もきっと気に入ると思う。
ただ訳文がちょっと硬い。新訳か、もしくはいっそ泉鏡花訳『沈鐘』の復刻を望みたいところ。