書物を積む者はやがて人生を積むだろう

和書を積んだり漢籍を積んだり和ゲーを積んだり洋ゲーを積んだり、蛇や魚を撫でたりする。

イスマイル・カダレ『死者の軍隊の将軍』

死者の軍隊の将軍 (東欧の想像力)

死者の軍隊の将軍 (東欧の想像力)

そこにあるのはいつだって、嫌なことだし、隠しておくようなことだし、そして語られざることばかりなんだ。(283ページ)

 第二次世界大戦から二十年を経て、イタリア(と明記されてはいないが)の将軍と司祭がアルバニアを訪れる。その目的はアルバニアに葬られている戦没兵の遺体を回収し遺族のもとへ届けることであった。

 アルバニアの作家カダレの出世作にして代表作。『誰がドルンチナを連れ戻したか』を読んでからずっと読んでみたかった本だが、とうとう翻訳・出版された。まずは万歳。
 『ドルンチナ』は中世を舞台に、「誓い」の風習を扱った不条理気味の作品だったが、こちらは現代を舞台にしているし、描写も基本的にリアリズム。「東欧の想像力」シリーズの中ではわりと普通に読める、読みやすいタイプの作品だと思う。
 ストーリーは単純で、将軍と司祭が墓堀人を連れてアルバニアの山野をめぐって遺体を探し、探し当てたり、問題が起こって見つからなかったりする、というだけ。また題材が題材なので、作品世界の空気はいたって沈鬱。それらの点で、シリーズ前巻のパヴィッチの奇抜で華麗な小説とは対照的。といっても不思議と、退屈するようなところは全然ない。
 戦没兵が残した日記や、人々の語る往時の記憶、それらひとつひとつは「よくある戦争の悲劇」なんだけれども、それが積み重なって将軍を沈めていき、やがては死せる兵隊たちが生ける将軍の行動を強く縛るようになる、そのあたりの叙述に異様な迫真性があって、読んでいてぞくぞくしてしまった。

今の自分にあるのは、完全なる死者の軍隊だ。将軍はそう思った。もっともそいつらは今、制服のかわりに、めいめいナイロン袋の中にいるのだが。白い線が二本に、黒い紐が一本ついている、「オリンピア」社製の特注品の、青いナイロン製の袋だ。初めは、ほんの分隊だった。それから中隊、そして大隊になって、今では充分に師団や連隊だ。完全なる、ナイロンをかぶった軍隊だ。