カレル・チャペック『絶対製造工場』
- 作者: カレル・チャペック,飯島周
- 出版社/メーカー: 平凡社
- 発売日: 2010/08/11
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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その通り。神全体を所有していることを自分自身に確信させるために、他人を殺さなきゃならない。いいかい、自分が神全体、真理全体を所有することが、自分にとってとても大切だという、まさにそのことのためにだ。そんなわけで、他人が自分とは別の神、別の真理を持つことに我慢できない。もしそれを許すなら、自分が神の真理の中のみじめな数メートル分、数ガロン分、数袋分しかもっていないことをみとめなけりゃならないからな。(249ページ)
技師マレクは、物質を完全に分解してエネルギーに変える機械カルブラートルを開発する。これは従来よりずっと少量の燃料で莫大なエネルギーを得られる機械だったが、物質を分解すると同時にその中の「絶対=神」をも解放してしまう代物であった。カルブラートルが世界中に普及していくと、「絶対=神」も各地各国に溢れるようになり、やがて大きな混乱と破局をもたらしていく。
チャペックの処女長編小説。といっても個々の章の独立性が高く、短編連作という感もある(作者はまえがきで「長編的連載短編(ロマーン・フェイエトン)」と呼称している)。
汎神論から着想を得て、本当に神を世界中にばらまいてしまうというのは、いかにも古典SFらしくて楽しい。
そこで、戦闘には、聞いた事もないような武器(地震、サイクロン、硫黄の雨、洪水、天使、ペスト、いなごなど)が使われ、戦略を完全に変えざるを得なかった。集団的攻撃、塹壕による持久戦、散兵戦、トーチカ、その他似たような無意味なものは廃棄された。(217ページ)
これは作品後半に起こる世界大戦に関する記述。それほどひねりが効いているとは思えないものの、なんだか妙に笑えた。
眠くなるような章もけっこうあるが、世界大戦が始まってからのシュールな大騒ぎは必見。とんちきな騒ぎは規模が大きいほど楽しいもの。女王国を求めてインドの奥地で消息を絶つ新ナポレオンとか、大胆不敵な策謀によって単身で市政を乗っ取っておきながらその後は無難な統治を行うだけだった奴とか、尻すぼみなオチを持つキャラクターが多くて笑える。まあ、カタストロフィーってやつは脇から眺める分には笑えるものだから。
誰でも人類のことはとてもよく考えてるんだが、個人個人については、それはない。おまえを殺してやるぞ、でも人類は救ってやる、ってわけだ。(274ページ)
うん、いかにも現代的ですね。目新しくはないけど的を射ている。それにしても1922年に書かれた小説に、1940年代に世界大戦が起こることが描かれているところはなんとも気持ち悪い。数年の誤差はあるが、よくもまあ言い当てたりというところだ。