R.A.ラファティ『昔には帰れない』
- 作者: R.A.ラファティ,R.A. Lafferty,伊藤典夫,浅倉久志
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2012/11/01
- メディア: 文庫
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わかりきったペテンに手もなくひっかかるのは不信心な人間だけさ。(68ページ)
最高のSF作家ラファティの短編集。ハヤカワ文庫では四冊目になる。二部構成になっていて、第一部はシンプルなショートコント、第二部は長めでやや複雑な構成の短編を収めている。
読書ブログなどを検索してみると評判の高い「素顔のユリーマ」は、クレイジーな発明家が世界征服をたくらむに至るまでの軌跡を描く。マッドサイエンティストを創り出すのは本人の性質か、周囲の環境か。
「ぴかぴかコインの湧きでる泉」は不死と尽きぬ富を手に入れた男の話。しかし、尽きぬ富にも条件があって……ということで、意地の悪い結末には笑ってよいやら泣いてよいやら。
「ゴールデン・トラバント」は小惑星帯から金を地球に持ち込み稼ごうと企む悪漢シルドの物語。ピカレスク&ハードボイルドな空気がたまらなく楽しい。
「やつを殺せ!」とロバート・ファウンテンがいった。
「やつを殺せ、とファウンテンがいっても、ほかのふたりは顔を見あわせてるだけか。なあ、ファウンテンよ、こんなばつのわるい沈黙の場を避けるためにも、あんたが殺せといえばさっさと殺すような男を連れていくほうが利口じゃないかね? だけど、おれの殺しかたはえげつないぜ。(208ページ)
ラファティのあっけらかんとした筆致は、こういう悪漢の台詞まわしなんかにはとても向いていると思っている。ラファティのハードボイルドについて書かれた面白い論考はないものかな。「廃品置き場の裏面史」に出てくる警官と質屋のチェス盤を挟んでのやり取りなんかも、同様にニヤニヤさせられる。