オノレ・ド・バルザック『暗黒事件』
2chのバルザックスレなんかでも『ゴリオ』『ベット』『ラブイユーズ』などと並んで人気のこの作品を読了。さすがバルザック。やっぱり傑作。ローランス萌え。
- 作者: バルザック,小西茂也
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1953/10
- メディア: 文庫
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「歌いつつ死なん!」とロォランスは叫んだ。「家の御先祖の五人乙女のあの叫びは、何時何時までもこの私のですわ」(198ページ)
ナポレオンの時代を舞台にした歴史政治小説。亡命貴族シムーズ兄弟とオートセール兄弟、それにシムーズの従妹ローランス・サン=シーニュは、王党派としてナポレオン政権の転覆を企てている。しかし彼らの計画は、ナポレオンの側近フーシェやマランらのより大きな権謀に巻き込まれ、悲劇的な結末へ向かう。
この作品はバルザックのファンの間でかなり評価が高いようだったので、古本屋で見つけてすぐ購入したのだが、期待を裏切らないすばらしい出来で、中盤以降はまったく夢中に読まされてしまった(描写が過度にくどいところをいくらか読み飛ばしたのは、まあ、いつものとおりであるが)。筋書きは緊張感に満ちていて、途中で読むのをやめられない面白さがある。ナポレオンという輝かしい人物を取り上げながら、その周囲の暗黒を冷徹に描写しているあたりは、歴史小説としての興味が尽きないところだし、主人公ミシウや女主人公ローランスの英雄的な行動も、心打たれるものがある(バルザックは写実主義と言われるが、けっこう英雄趣味なところもあるような気がする。ただし、スケールの小さな英雄には、悲しいかな、常に悲劇が待ち受けているものだし、バルザックはキャラクターを容赦するような作家ではない)。
余談になるが、ナポレオンの近臣、といったとき、ネーとかミュラとかを取り上げるユゴーと、タレーランやフーシェに注目するバルザック、こうして比べると、19世紀フランスを代表する二人の作家の趣味の違いが端的に見えてくる感じがする。