アウグスト・ストリンドベリ『令嬢ジュリー』
「下郎! 召使! 立っておいで! 私が口をきいてるあいだは!」
「召使の妾! 下郎相手の淫売! 四の五の言わずに、さっさと出て行け!」(77ページ)
婚約者が破談になった直後の伯爵令嬢ジュリーは、夏至の夜に下男ジァンに火遊びを仕掛けてみる。しかしそれは取り返しのつかない事態に発展する。
ストリンドベリの代表作。分量も短く、登場人物も三人きり、筋立ても単純だが、なるほどさすがの濃さ。とはいえ私としては『父』のほうが好みだ。
貴族の娘で個人主義的なジュリーと、召使ながら教養があり上昇志向のジァン(この二人のキャラクターが、かなり複雑に造られているあたりは、『父』に勝っているところか)の力関係が、芝居の中盤に至って逆転するところが作品の見所。そのあとの激したり優しくなったり、キャラクターの感情が激しく揺れる展開はいかにもストリンドベリ的。感情的な台詞のやりとりで読ませる読ませる。
ただ、私が『父』をすごい劇だと思った理由は、大尉が周囲の女たちに少しずつ少しずつ追い込まれていくところが大きかったので……その点、『令嬢ジュリー』は事件ひとつで一気に局面が変わるので、サイコホラー的な怖さでは『父』にはひけをとるような。まあ、私が男だから、男性が破滅する話のほうが恐ろしく思えるだけかもしれないけれども。
そうはいっても、こちらもまた迫力の尋常でない劇には違いない。