書物を積む者はやがて人生を積むだろう

和書を積んだり漢籍を積んだり和ゲーを積んだり洋ゲーを積んだり、蛇や魚を撫でたりする。

『セルバンテス戯曲集』からコメディア「気風のよいスペイン人」と幕間劇「離婚係りの判事さん」

〇めちゃくちゃ成長している……!(安西先生の例のコマを想起しつつ) なんか構成とかキャラの立て方とかが時代ひとつ超えたくらいに発展しててびっくりした。「ヌマンシア」「アルジェ」と比べると『ロランの歌』と『狂えるオルランド』くらい違う。

 

 三幕のコメディア「気風のいいスペイン人」はアルジェリアのオランにおけるスペイン軍とムスリムの戦いを下敷きにした史劇。モーロの戦士アリムセルは姫アルラハの愛を得んがため、名声高きドン・フェルナンドに一騎討ちを挑む。アリムセルの堂々とした態度に感じ入ったドン・フェルナンドは一騎討ちに応じたいと願うが、オラン総督ドン・アロンソに制止される。ドン・フェルナンドはオラン要塞を抜け出し、名を変えて敢えてモーロ軍に投降し、アリムセルとの決着の機会をうかがう。一方、ドン・フェルナンドに恋する乙女アンジェリカも、騎士に姿をやつしてアルラハのもとへやってきていた……。

 予定調和に向けて一直線に進んだ「ヌマンシア包囲」と違って、こちらは登場人物がそれぞれ好き勝手な動機で動き、しかもほかのキャラクターに意図を隠し正体を隠して動くものだから、予定調和へ向かうにしても方向は二転三転する。結末は見えているんだけれども、どうやってその結末に至るか分からないというわけ。だから眠くならない。あとムスリム側の登場人物も含め、みな鷹揚で高邁にふるまうので全体的に爽やかな雰囲気があるのもよい。

 ときどき現れて場面をひっかきまわす道化役の腹ペコ戦士ブイトラゴの活躍も忘れ難いものがある。

俺は六人分食べても七人分は戦う男。

 

  幕間劇「離婚係りの判事さん」、町の判事の前に離婚を希望する夫婦が次々登場し、相手への不満を面白おかしく語りまくる。嫌いなものについて語るとみんな雄弁になるなぁって話。

 

 このセルバンテス全集の『戯曲集』、初期の二作「ヌマンシア」「アルジェ」と長編コメディア八編、幕間劇八編の構成になっているので、コメディアを一つ読んで箸休めに幕間劇一つ読んで、と進めていくとちょうど良さそう。

 「気風のよいスペイン人」を見た感じではほかの七編のコメディアにも期待できそうです。

 

『セルバンテス戯曲集』から「ヌマンシアの包囲」「アルジェの生活」

〇あんたの小説には興味あるけど脚本にはない。セルバンテスさん、はっきりそう言われてしまったとのこと。さすがに傷ついたらしい。

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