古橋秀之『冬の巨人』
充分おもしろかったけど、期待が大きいぶん、感想にも苦言が多くなってしまう。「黒古橋カムバック!」と叫びたい気分だ。いずれにせよ次作品は楽しみにしている。

- 作者: 古橋秀之,藤城陽
- 出版社/メーカー: 徳間書店
- 発売日: 2007/04/10
- メディア: 単行本
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我々は孤独ではないぞ。(150ページ)
巨人ミールは果て無き凍土のうちを七日に一歩進み、巨人の背に築かれた街の中に暮らす人々には、ミールの外の世界など考えられない。しかしミールの死が近いことを知るディエーニン教授は、その死に備えて助手のオーリャ少年とともにミールの外に下りては観測を続けている。あるとき、ディエーニンは気球を飛ばして空からミールを観察する計画を立案。計画に従って空に上ったオーリャが見たものは――。
雪原をゆっくり歩く巨人とその背中の都市、という世界設計は綺麗だし、その世界を浮かびださせる情景描写も鮮やかで、閉塞的で世紀末的な都市の気配や、雪原の凍てつくような空気が直に伝わってくるようである。
全体的にリリカルな雰囲気に満ち、結末も救われるものであり、爽やかな読後感を得られる。けれども、「ケイオス・ヘキサ」シリーズの異様な人物造型と容赦ない展開に比べると、ややインパクトに欠けるし、分量的にも少しばかりもの足りない。クオリティは高いけれども、綺麗にまとまり過ぎている感がある。