書物を積む者はやがて人生を積むだろう

和書を積んだり漢籍を積んだり和ゲーを積んだり洋ゲーを積んだり、蛇や魚を撫でたりする。

古橋秀之『冬の巨人』

 充分おもしろかったけど、期待が大きいぶん、感想にも苦言が多くなってしまう。「黒古橋カムバック!」と叫びたい気分だ。いずれにせよ次作品は楽しみにしている。

冬の巨人 (徳間デュアル文庫)

冬の巨人 (徳間デュアル文庫)

我々は孤独ではないぞ。(150ページ)


 巨人ミールは果て無き凍土のうちを七日に一歩進み、巨人の背に築かれた街の中に暮らす人々には、ミールの外の世界など考えられない。しかしミールの死が近いことを知るディエーニン教授は、その死に備えて助手のオーリャ少年とともにミールの外に下りては観測を続けている。あるとき、ディエーニンは気球を飛ばして空からミールを観察する計画を立案。計画に従って空に上ったオーリャが見たものは――。

 雪原をゆっくり歩く巨人とその背中の都市、という世界設計は綺麗だし、その世界を浮かびださせる情景描写も鮮やかで、閉塞的で世紀末的な都市の気配や、雪原の凍てつくような空気が直に伝わってくるようである。
 全体的にリリカルな雰囲気に満ち、結末も救われるものであり、爽やかな読後感を得られる。けれども、「ケイオス・ヘキサ」シリーズの異様な人物造型と容赦ない展開に比べると、ややインパクトに欠けるし、分量的にも少しばかりもの足りない。クオリティは高いけれども、綺麗にまとまり過ぎている感がある。