書物を積む者はやがて人生を積むだろう

和書を積んだり漢籍を積んだり和ゲーを積んだり洋ゲーを積んだり、蛇や魚を撫でたりする。

マイクル・ムアコック『永遠の戦士コルム』全2巻

剣の騎士 [永遠の戦士 コルム1] (ハヤカワ文庫SF)

剣の騎士 [永遠の戦士 コルム1] (ハヤカワ文庫SF)

雄牛と槍―永遠の戦士コルム〈2〉 (ハヤカワ文庫SF)

雄牛と槍―永遠の戦士コルム〈2〉 (ハヤカワ文庫SF)

 『剣の騎士』『剣の女王』『剣の王』の前三部作と、『雄牛と槍』『雄羊と樫』『雄馬と剣』の後三部作からなる、ヒロイック・ファンタジーのシリーズ。前三部作は、一族を皆殺しにされた公子コルムが、魔術師によって移植されたクウィル神の手とリン神の眼を使って混沌の神々と戦う話。後三部作は、未来世界へ召喚されたコルムの冒険と、その最期を描く。

 前三部作は傑作だと思う。コルムの成長というか人格形成というか、満ち足りた環境から投げ出され、悲しみや怒りを知っていく過程の描写は、どこか神話などの始原的な物語を思わせてなかなかよい。幻想描写も相変わらずぐにゃぐにゃとねじれて強烈異様、登場してくる人物や神々、あるいは数々の道具も奇怪で楽しい。幻想小説としての完成度の高さと、ヒロイックファンタジーとしての勢いの良さやスケールの大きさを兼ね備えている。
 後三部作も一気に読みとおせるだけの勢いはあるものの、スケールや異様さ奇怪さの点ではやや後退している感があるのが残念。前三部作との関連も弱く、悪くとれば蛇足とも見えてしまう。なにせ前三部作は(コルムが死亡しなかった点をのぞけば)綺麗に完結しているので。
 というわけで『剣の騎士』はおすすめ。『雄牛と槍』はさらに興味があればどうぞ。