書物を積む者はやがて人生を積むだろう

和書を積んだり漢籍を積んだり和ゲーを積んだり洋ゲーを積んだり、蛇や魚を撫でたりする。

マイクル・ムアコック『剣の騎士』

剣の騎士 [永遠の戦士 コルム1] (ハヤカワ文庫SF)

剣の騎士 [永遠の戦士 コルム1] (ハヤカワ文庫SF)

 『紅衣の公子コルム』六編のうち前編三部作にあたる『剣の騎士』『剣の女王』『剣の王』の三作品の合本。一族を皆殺しにされ、自身も片目片手を失った公子コルムは、「クウィルの手」と「リンの眼」を移植され、混沌の神々と戦う宿命を課される。
 ムアコックのヒロイックファンタジーのうち、この『コルム』は『エルリック』と並び最も人気の高いものだと聞いていたが、読んでみてその理由がよくわかった。古い種族の最後の生き残りにして聖痕を持つ主人公に、神話的な世界観、奇々怪々たる人物や生き物、道具に都市そして神々。ねじれた幻想描写。ヒロイック・ファンタジーのお約束とムアコックのエッセンスが多量に詰め込まれ見事に組み合わされて、実に良質なエンターテイメントになっている。破天荒さや苛烈さでは『エルリック』に及ばないものの、物語の完成度はこちらが上だろう。
 来年一月に刊行される後編三部作は随分暗い作風になっているという噂なのでこれまた楽しみである。