ジャック・ステルンベール『五月革命’86』
- 作者: ジャック・ステルンベール,田村源二
- 出版社/メーカー: サンリオ
- 発売日: 1979/06
- メディア: 文庫
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昔から思っていたんだけど、二十から六十までは仕事をしなくてもすむようにしてね、六十になったところで仕事に就かせるようにするべきなんだわ。何かできるときに仕事をするなんて馬鹿げている。六十になったら、もう大したことはできないんだから、仕事でもしていればいいのよ。(226ページ)
環境汚染の進んだ1986年5月、異常な酷暑の中、パリで夜間ひそかに四万台の自動車が人知れず破壊されるという事件が起こる。これが進歩と文明を排撃する革命の始まりとなった……。
久しぶりに引き当てた超一級の地雷。かなり本気で金返せと思った。ああ、我が2500円よ。
作品のスタイルとしては、文明からドロップアウトして、愛人とともに海辺での生活を楽しむ主人公が、外側から革命を観察して日記につづるという体裁をとっている。
登場する名有りの人物はみな語り手の友人か仲間で、意見や感情が対立する場面はまったくないので、心理・性格描写に見るべきものはない。SFとしては、物語の開始時点でどう見ても人類滅亡レベルまで環境汚染が進んでいる(海水を全身に浴びたら即死だそうな)のに社会が曲がりなりにも機能しているのと、革命が始まって産業が停止したら三ヶ月でその汚染が解決してしまうあたり、科学素人の目から見てもあきらかにリアリティがなく論外。文明批評、これがこの小説の主眼だと思うが、この点でも産業や消費をやめて自然に無為に生活を楽しもうといったような、現実味はもちろん、目新しいものもまったくのない主張がなされていて、話にならない。
暮らしに困ったことの無い金持ちナチュラリストの妄想本。コレクター以外は買う価値なし。読む価値はさらになし。