書物を積む者はやがて人生を積むだろう

和書を積んだり漢籍を積んだり和ゲーを積んだり洋ゲーを積んだり、蛇や魚を撫でたりする。

ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー『ブレーメンの自由』

 ドイツ現代劇、10冊目。論創社のドイツ現代戯曲選もこれでようやく3分の1を読了したことになる。全30巻読破はまだまだ遠い。

でも頭でものを考えるようになったら、もうお終いだ。(66ページ)

 舞台は19世紀のブレーメン。ヒロインのゲーシェは、自分の欲求と齟齬をきたすたびに、夫、両親、子供、友人などを次々に毒殺していく。15名を殺害したかどで死刑になった実在の女性をモデルにした作品。

 最初のうちは、「ハハァ、連続殺人という過激な外面を見せてはいるけど、根本的には女性が社会から受けている抑圧を暴露するのが狙いか」と推察し、現代人が読むにはちょっと古くはないかと疑問に思っていたのだが、読み終わってみると、ジェンダー問題などよりも、むしろ現代人としてどう生きるか、どう自由に生きるかという問題のほうが主眼のような気がしてきた。「頭でものを考えるようになったら、もうお終いだ」とか、「人は思ってることをいつも口に出してはいけないものよ」などのセリフは、女性として、というよりは、現代人として自由に生きることの難しさを提示したものだろう。
 ヒロインのゲーシェを力をいれて描いているかわりに、ほかの登場人物の性格や背景に多様性が少なく、プロットも単純なので、前に読んだ『ゴミ、都市、そして死』に比べると評価は落ちる。ファスビンダーの作品を読もうという人には、『ゴミ、都市、そして死』のほうを強く推したい。