トーマス・ベルンハルト『ヘルデンプラッツ』
論創社の「ドイツ現代戯曲選30」の最終巻。こういう企画がめでたく完結するのは嬉しいことだな(もっと読まれるといいんだが)。私はまだ五冊読み残しがあるのでそれも読む予定。
- 作者: トーマスベルンハルト,Thomas Bernhard,池田信雄
- 出版社/メーカー: 論創社
- 発売日: 2008/05
- メディア: 単行本
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シェークスピアが大事だ、と兄が言うと
そんなものは関係ない、と世界は言う(186ページ)
かつてヒトラーが演説したヘルデンプラッツ(英雄広場)で、ヨーゼフ・シュースター教授が飛び降り自殺をする。第一幕ではヨーゼフの家政婦ツィッテルが、第二幕と三幕ではヨーゼフの弟ローベルトが、他の人を相手に故人の思い出を語りながら、オーストリアを罵倒する。
上演当時、相当なスキャンダルを巻き起こしたというがそれも納得、全篇これオーストリアやウィーンへの痛罵(諷刺というより罵倒だよなこれは)、「愛国者」の人たちが憤激するのも無理からぬところ。
登場人物の長大な、しかし脈絡のない語りから故人の人物像や故人の家族の薄い人間関係が浮かび上がってくる構成とか、かつてのヒトラー演説のさいの住民の歓喜の声が幻聴としてよみがえるラストシーンの演出とか、さすが当代一流の作家と評価されているだけあるとは思う。ただ、オーストリアの国風を批判する言葉が露骨すぎるのにはどうも感心しない。『座長ブルスコン』のように喜劇色の強い作品のほうが私としては好みだ。