書物を積む者はやがて人生を積むだろう

和書を積んだり漢籍を積んだり和ゲーを積んだり洋ゲーを積んだり、蛇や魚を撫でたりする。

タチヤーナ・トルスタヤ『金色の玄関に』

 作者はA.N.トルストイの孫娘。そういえばA.N.トルストイは読んだことないな。『苦悩の中をゆく』は面白いのかしらん?

金色の玄関に

金色の玄関に

 初めてアレクサンドラ・エルネストヴナが目の前を通り過ぎたのはある朝早くのこと。彼女は薔薇色のモスクワの太陽を体いっぱいに浴びていた。ストッキングは下にずり落ち、足はみすぼらしい板切れのよう、黒いスーツは擦り切れ、てかてか光っている。(……)九十歳くらいかな、とわたしは思った。でも、それは六歳だけ違っていたけれど。(「可愛いシューラ」、48ページ)

 作者の第一短篇集。13編の作品を収める。
 平凡な日々を、夢想や幻想にすがって生きていく人々の姿を、ユーモラスに=辛辣に描いているところが面白いところ。どちらかといえば甘口な作品集だと思うけれど、ベタベタな甘さではなくて、愚昧・狭量な登場人物たちを客観的に描いているからこそ、かえって彼ら・彼女らへのいとしさがこみあげてくるように思えた。
 それと、作品内で時間がかなり急速に過ぎ去るのも特徴だと思う。輝かしい夢にすがっているうちに、幼年時代も青春も、何事も起こらないまままたたくように過ぎ去ってしまう。そのあっけなさ。