タチヤーナ・トルスタヤ『金色の玄関に』
作者はA.N.トルストイの孫娘。そういえばA.N.トルストイは読んだことないな。『苦悩の中をゆく』は面白いのかしらん?
- 作者: タチヤーナトルスタヤ,Tatyana Tolstaya,沼野充義,沼野恭子
- 出版社/メーカー: 白水社
- 発売日: 1995/05
- メディア: 単行本
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初めてアレクサンドラ・エルネストヴナが目の前を通り過ぎたのはある朝早くのこと。彼女は薔薇色のモスクワの太陽を体いっぱいに浴びていた。ストッキングは下にずり落ち、足はみすぼらしい板切れのよう、黒いスーツは擦り切れ、てかてか光っている。(……)九十歳くらいかな、とわたしは思った。でも、それは六歳だけ違っていたけれど。(「可愛いシューラ」、48ページ)
作者の第一短篇集。13編の作品を収める。
平凡な日々を、夢想や幻想にすがって生きていく人々の姿を、ユーモラスに=辛辣に描いているところが面白いところ。どちらかといえば甘口な作品集だと思うけれど、ベタベタな甘さではなくて、愚昧・狭量な登場人物たちを客観的に描いているからこそ、かえって彼ら・彼女らへのいとしさがこみあげてくるように思えた。
それと、作品内で時間がかなり急速に過ぎ去るのも特徴だと思う。輝かしい夢にすがっているうちに、幼年時代も青春も、何事も起こらないまままたたくように過ぎ去ってしまう。そのあっけなさ。