書物を積む者はやがて人生を積むだろう

和書を積んだり漢籍を積んだり和ゲーを積んだり洋ゲーを積んだり、蛇や魚を撫でたりする。

ジョン・スラデック『見えないグリーン』

見えないグリーン (ハヤカワ・ミステリ文庫)

見えないグリーン (ハヤカワ・ミステリ文庫)

「典型的な事件だ。パルテノンの神殿にも匹敵する事件だ」とフィンは声に出していった。「いや、そうだろうか? この事件はパルテノンの壮大な列柱のように古典的なのだろうか? それともカンザス・シティの銀行の表構えのように”古典的”ということか――安っぽい、いんちきな、仕組まれたしろものか?」(327ページ)

 犯罪小説好き七人からなるサークル「素人探偵七人会」。紅一点・ドロシイ・フェアロウは35年ぶりに会を召集しようとメンバーに手紙を送った。やがて会の一人・ストークスから電話がかかってくる。彼は自分を狙う陰謀を警戒していた。ストークスの精神異常を認めつつ、しかしやや不審に思ったフェアロウは、友人の探偵フィンに連絡する。まもなくストークスは密室で謎の死を遂げる。

 初スラデック。「奇想SF作家が書いたゴリゴリの本格ミステリ」ということで、きっと素直なシロモノではないんだろうと思っていたが、やはり変な小説だった。初めから終わりまでちゃんとミステリしてはいるのだが、どうも違和感、メタっぽい感じがあるというか、「ミステリ」というジャンル自体をネタにしている雰囲気がある。この感じ、中井英夫の『虚無への供物』を読んだときの感触にちょっと似ている。自己言及的な台詞や場面がやたら多いのだ。例えばこれ。

「こりゃ刻一刻、型通りになってきてますね。すでに”無愛想な召使”がいて、今度は”危険な狂人”ときた。ここまでは典型的な田舎屋敷の殺人てやつだ。あと足りないのは、宝石泥棒の執事、使いこみをやってる秘書、それにカナダにいっていた弟ってとこですかね」(224ページ)

 過去の名探偵や探偵小説に言及することも多い。また、どこだったか忘れたけれど、証拠集めは警察がしておいて、探偵は安楽椅子で推理に集中すべきといったような台詞もあったし、推理・論理を展開するのは得意だが、現場観察の能力はぱっとしない、というフィンの探偵としての能力、こういうところからもメタ的なにおいがぷんぷんする。